11.ポストTCSの動き-2
化学プラントにおけるリアルタイムデータとは、そこで扱われる液体や気体の温度・圧力・流量・液位などである。アナログ時代には主要な計測点のデータは専用のセンサーから送られ、専用の指示・記録計に連続的に表示・記録されていった。しかしディジタル化されると、何点か複数の計測点を一つのコンピュータで処理することになるので(こうしないとアナログより価格が高くなってしまう)、それぞれの計測データは順番に処理されることになり不連続になってしまう。その時間間隔はコンピュータの処理スピードによって決まり、初期のものでは早くても2秒程度あった。この周期では特殊な圧力制御などでは工夫しないと安定的な制御も出来ないことも起こる。良質なリアルタイムデータ収集・蓄積はコンピュータ本体の能力とそれを処理するためのアプリケーションソフトの仕組みに大きく影響されるのだ。もう一つアナログシステムとの違いは、データの保存にある。アナログ時代は測定値の動きをペンで記録紙に描くので記録紙さえ取替えれば長期にデータを保存することが出来、あとで解析作業にも使える。しかしディジタルでは内部メモリー容量に限界があり、これを外部メモリーに移すシステムが複雑になって、柔軟なデータ利用に制約を受ける。CPUのスピードが向上し不連続の間隔が短くなる(より高精度になる)ほどメモリーを消費する量が飛躍的に増加するので、データの蓄積方法に更なる工夫が必要になってくる。
この問題はプロセス制御用コンピュータ(プロコン)が実用化されて以来常に付きまとう問題点であり、TCS導入に際してもACS(高度制御と加工データ長期保存・利用)とDCS(単純制御と生データの短期保存)の間で役割分担を分けてきたがACSで保存できるデータは分単位でDCSから吸い上げたものを1時間平均さらに一日平均して保存するので、時々刻々の動きを残すものではなかった。一方DCSには秒単位のデータが取り込まれるのだが、保存量と加工は短期・単純でプラント運転には十分でも更なる高度利用(技術解析や生産管理)には展開できなかった。
ポストTCSを目指す以上、最新のIT環境下でこのような制約を解消し、使いやすいリアルタイムデータ処理システムを自ら作り上げるか、外から見つける必要があった。しかし、東燃グループでポストTCSシステムを自社開発するならともかく、TCSの段階で外部パッケージ(IBMおよび横河電機製品)に若干手を入れる程度で収めたことからも、それは考えられない。残る方策はMIMI同様、海外の優れた製品を導入することである。
当時の本分野における私の情報源は、東燃グループを通して得られるExxonの技術情報、IBMやDEC等海外メーカーからもたらされる話、学会(主に化学工学会)活動によるもの、海外出張等の機会に見聞するもの、海外の専門誌(特に、Hydrocarbon Processing、Oil & Gas
Journal、Chemical Engineering Progress)などであった。これらから組立加工を含む産業用制御システムはSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)と呼ばれ多種多様なものが市販されていることが分かったが、大部分は組立加工用でプロセス用は多品種少量生産のバッチプロセス(薬品、食品など)を対象とするものが数種市場に出ている程度だった。これはこれで更に調べる必要はあったが、連続プロセス向けのシステムを見つけることが先決である。しかし、ここはHoneywellを始めとするDCSベンダーがハードと一体化した自社製品で一応抑えており、どこのDCSともつながるオープンなものはなかった(と感じていた)。
(次回;ポストTCSへの動き;つづく)
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