2009年12月24日木曜日

センチメンタル・ロング・ドライブ-48年と1400kmの旅-(35)

35.和歌山市内 初島から阪和道海南ICまでの道は全く昔と変わらない。冷水(しみず)浦や片男波辺りから和歌の浦、更に先の紀淡海峡を見通す景観は、48年前乗った汽車からの眺めを今に残し、いつ見てもその美しさに心が洗われる。万葉人も愛でたその時代が時空を超えて伝わってくるのだ。
 ここから海南市内をバイパスして和歌山駅(元東和歌山駅)に至る道は、海南市の北端から紀三井寺を経て和歌山駅まで昭和46年の黒潮国体を機に、嘗ての路面電車の軌道跡を中核に大幅に整備され、海南市内も海岸の埋め立てで工業団地が出来たときにバイパスが作られ見違えるように走り易くなっていた。とは言っても、楽しい走りが出来る道ではない。他の大都市周辺の新道と同じくけばけばしく、安っぽい感じの飲食店や車関係の店、ショッピングセンターなどが両側を埋めている。土曜日の午後と言うこともあり、買い物客の車の出入りが多く車線変更に細心の注意が必要だ。カーナビの案内が有り難い。何とか2時過ぎにJR和歌山駅に隣接するホテル・グランヴィア和歌山の駐車場に辿り着いた。
 ホテルは駅の西側、息子のマンションは駅の東側。訪問するのは今回が初めてなので、東側駅前広場の一角にある、関空バスの発着場で待ち合わせして新居を訪れた。和歌山を去った当時は駅の東側はほとんど何も無かったが、今は綺麗に区画整理されニュータウンが出来上がっている。紀三井寺から駅までの道やこの周辺を見ると、新しい和歌山市が形作られてきているのが分かる。後でも述べるが、その分旧市街中心部は衰退著しい。
 土地代が安いこともあり、和歌山ではどこでも家は立派だが、息子のマンションも首都圏とは大違い。駅から徒歩10数分の比較的新しいマンションは東西南の三方に開口部がある。その6階の部屋からの眺めはなかなかのものであった。京橋界隈で生まれ育った嫁も、文化ギャップは感じているようだが、ここでの生活を楽しんでいるように見え一安心。
 一休みして息子の車で市内見物に出かける。先ず向かったのは和歌山城、御三家の一つ紀州徳川家の居城である。残念ながら昭和20年7月の爆撃で11棟あった国宝建造物はすべて焼失、現在はコンクリート製である。しかし小高い丘(虎伏山)に聳え立つ天守閣からの眺めは、四方に下々を睥睨して殿様気分を堪能させてくれる。周辺は古くは武家屋敷、今では官庁や学校などが集中しており、南側には落着いた佇まいの個人住宅が残っている。
 次に向かったのは万葉にも詠われた和歌の浦、その最西端にある雑賀崎である。戦国時代信長・秀吉に抵抗して壊滅させられた傭兵集団、雑賀衆ゆかりの地である。和歌山には日本史が直ぐそこにあるのだ。
 一車線がやっとの狭く曲がりくねった道を辿って小半島の先端、雑賀崎灯台に至る。南北と西は海、遥か彼方まで見渡せ、南には東燃のタンク群が西日に映えていた。新入社員教育時、会社のタグボートでこの海を往復したことが思い出される。
 灯台からの小道を小半島周回の道路に出て、反時計方向に周ると直ぐに新和歌の浦に出る。断崖絶壁からの景観を利用した旅館街は、嘗ては和歌山市の奥座敷だったが今は見る影も無い。研修施設などに転用されているところもあるが、まるでゴーストタウンである。それに比べれば、観光地としての地位を一旦新和歌に奪われた古くからの町、和歌の浦は生活の匂いが昔と変わらぬ姿で残っていた。変化を求めるのが良いのか?自然体で行くのが良いのか?判断の難しいところである。
 一旦ホテルと自宅に戻り、一休みして繁華街、ぶらくり丁(ぶらくる;ぶら下げるの意、アーケード街)界隈を見物して、そこからからさほど遠くない「銀平」と言う魚料理の店に出かけることになっていた。6時過ぎにホテルロビーに集合、タクシーで嘗ての大通り、築地通りのぶらくり丁入口まで行き、そこからもう一つの市内主要道路、中央通りへ至るアーケード街を歩いてみた。土曜の夕方、本来なら賑わう時間帯である。しかし今ではほとんどの店が閉店か開けていても閑散としている。中央通りへ出ると唯一のデパート「丸正」は既に無い。地方都市における経済活動の激変を思い知らされた。
 「銀平」はそのぶらくり丁の南側を流れる市掘川沿いに在った。銀座にも支店が進出するほどの店はほとんど満員、消費構造は変わっても優れた商品・サービスを提供するところは生き残っているのだ。ここの仕上げで味わった「鯛めし」は絶品であった。
 少し距離はあったが、帰りは駅までの途上、社用族御用達の高級料亭や小料理屋、バーが在った新地(あろち)を抜けて歩いた。しかし、ここも専らいかがわしい風俗ビジネス街に変わっていた。
 夜の和歌山市街地の変わり様は、浦島太郎の玉手箱を開けてしまった姿にも等しい。日本全体の縮図かもしれない。こう感じるのも歳のせいだろうか? 

 本日の走行距離は概ね120km。
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