湖畔から341号線に戻り、そこから北東へ向かう県道127号線、194号線に分け入って、秋田・岩手県境に近い乳頭温泉に向かう。道は緩やかな上りで、ほとんど人家もクルマもみかけない。途中桜が満開の並木道が現れるが、そんなところにも人の気配は無い。道幅が狭まり、曲がりと上りがきつくなって、残雪が目立つようになる。おまけにガスさえ出て、フォグランプを点灯しながらの走行だ。温泉地帯に入っても、いわゆる温泉街は無く、点在する宿泊施設が見えたり、そこへの分岐路が現れる程度である。一度だけ道路際にある比較的大きなホテル前で、停車中の小型路線バスを追い抜いた。今日の最終地、妙乃湯はそんな山奥の道の端に在った。数台しか停められない旅館前の駐車場は幸い空いていた。到着時間は5時少し前。辺りは天候のせいもありほの暗い。
この旅館の選択に特別の理由があったわけではない。インターネットで照会・予約でき、こちらの希望スケジュールに合うところを探した結果である。値段と景観(渓流側)で部屋を選んだ。地形に合わせて出来た、複雑な造りの建物のかなり奥部の部屋は、希望通り真下を雪解け水が音を立てて流れる位置に在った。部屋にはテレビもラジオも無かった(予め希望すれば無料で用意してくれることを、後で知った)。案内してくれた人は「ここには七の浴室があるので、是非全部お試しください」と言い、混浴や男女切替時間について注意をしてくれた。
夕食は和洋折衷の食堂で摂ることになっている。柱や床、それに食卓や椅子の茶色の木地と白い漆喰壁のシンプルな彩が、文明開化期の洋館のような雰囲気を醸し出している。食事は名物のきりたんぽ鍋が一応のメインだが、前菜、刺身から始まり、焼き物、煮物など盛り沢山、最後のご飯(無論秋田小町)はきのこ汁と漬物でいただく。このきのこ汁は絶品で、おかわりをしてしまった。
給仕をしていた、女将さんと思しき中年女性が一時席を外した。食堂に隣接して帳場がある。席からは見えないが、明らかに英語で予約に関する電話対応をしている。外国人がここの雰囲気に浸った時、その感動はいかばかりかと想像し、鄙びた温泉場の国際化が嬉しかった。
(写真はダブルクリックすると拡大します)
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