訪ねる所は「むら咲」という秋田郷土料理の店である。街の賑わいとはチョッと離れた場所に在り、地味な店構えで好ましい。中に入ると普通の食堂と変わらない。妙に民芸調でないのが更に良い。先客は、背広を着た土地のサラリーマンと思しき人が座敷に三人だけ。代表的なメニューは、きりたんぽ鍋、比内地鶏焼などだが、これらは今夜乳頭温泉で出る可能性があるし、昼食にはやや重い感がする。そこで「武家飯」というのを試みることにした。これは昔の武家の食事を模したもので、一汁四菜から成り、たんぱく質は鯉の甘露煮だけ、あとはとんぶりや旬菜など地場の野菜の煮物やお浸し、漬物などである。味付けは、甘露煮を除けば全体に淡白で、ご飯の量が抑えられるのは、現代風なのかもしれない。どれほど当時を反映しているのか分からないが、面白い経験だった。値段は1500円である。
昼食の後は本日のメインエベント、武家屋敷巡りである。ここ角館は秋田藩の支藩(藩主の弟の系統)なので、それほど大きな城下町ではない。町がつくられたのは1620年。武家屋敷のエリア(内町)はほぼ当時のままのプロットで残っている(個々の家は改修されたり、建替えられたりしているが)。
内町中央を南北に貫く(中央部で僅かにクランク状なるが)、よく景観保全された通りがメインストリートで、鬱蒼とした木立が通りに覆いかぶさるように茂っている。その両側(特に東側)に数軒の武家屋敷が残り、公開されている。それぞれの家には家格があるので、規模は大小だが、敷地の広さがたっぷりあり、町並みに品がある。
一軒を除き、屋外を巡って見学するのだが、戸・障子は全て開け放たれているので、おおよその部屋の配置や室内の様子をつかむことが出来、往時の武家の生活ぶりを偲ぶことが出来る。“質素”“静謐”“侘び”など言う言葉が相応しい、日々の暮らしであったに違いない。
城下町の風情を一部に残す町々は、全国いたるところにあるが、概ね都市化の波に洗われ、全体的な雰囲気は映画のセットのような景観である。しかし、幸いここは地方の小都市、商業主義が来る前に規制が加えられたのであろう、その時代を充分味わうことができ、今回の旅の主役は期待通りの役割を果たしてくれた。
秋田新幹線の開通は、首都圏からこの町への観光を飛躍的に容易にしている。町の発展には極めて望ましいことだが、“都会の喧騒”が無縁であることを願って止まない。
このあと樺細工工芸館を観て、駐車場近くの土産物屋で、コーヒーと生もろこしで出来た菓子を味わい、3時20分乳頭温泉ヘ向かいエンジンをスタートさせた。
(写真はダブルクリックすると拡大します)
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