2010年9月11日土曜日

決断科学ノート-43(トップの意思決定と情報-3;トップ・スタッフ間コミュニケーション)

 トップの情報リテラシー以外にも、経営者向け情報システム(TIGER)構築には種々問題はあったが、とにかく何か作らねばならない。どんな情報が日常的にスタッフからトップにあげられているか、あるいはトップから求められているか、トップとスタッフはそのためにどんなコミュニケーションを行っているか、を調査することから始めた。各部門スタッフ(主として部・課長クラス)への聴き取り調査である。これを通して更なる問題点が露わになってくる。
1)本社コンピュータに内在し、定期的にスタッフ部門を通じてトップに提供されるデータは、全体経営情報の中で僅かな割合である;
 現在のインターネット環境のようなものが存在せず、為替レート、原油価格、タンカーレートなど重要外部データが簡単にコンピュータ内に取り込めなかった。このような情報の収集・分析はスタッフの重要な業務であった。
2)経営に資する情報(特に外部情報)は簡単に数値化できないものが多い。数値化出来ていてもそれだけで決断できない;
 例えば国のエネルギー政策に関する情報などは、専任の担当者が居て、長い付き合いから微妙な情報をひき出し、トップに報告していた。また、生産計画用LPモデルで最適解が求まったからと言って、それで一義的に決まるものではない。
3)外部データを含めて、提供されるデータはスタッフの解説があって初めて経営情報に変じる;
 この仕事はスタッフの存在意義そのものであり、この分析・解説なくしてはデータもただの数字に過ぎない。ユーザー経験の少ない情報システム関係者はなかなかこの領域に踏み込めなかった。
4)担当役員はその部門出身者が務めることが多く、縦のコミュニケーションは深耕されている;
 部長席の横には役員用の椅子が置かれ、会議机もあったので担当役員がよくそこで部課長と話し込んでいる姿があった(呼びつけるだけで、全く自室から出なかった人も居たが)。そこでの情報はトップにとってスタッフの意見を理解し断を下すのに役立つものだった。
5)各部門スタッフと担当役員は頻繁に情報や意見の交換を行うが、その内容は担当部門内で閉じ、役員間で共有することはほとんどない;
 これは役員同士仲が悪かったのではなく、長く続いた経営方式がそうさせたと見ている。当時の東燃には役員が一堂に会して行う経営会議は無かった。定例取締役会は在ったが、エッソ、モービルの非常勤役員と常勤役員の儀礼的・形式的会合の場であると聞かされていた。重要案件の決裁は、事前に部長レベルで調整し稟議書の決裁・合議の承認を主管役員までもらい、副社長、社長個別に説明し最終決裁に至る方式であった。本社常勤役員は、監査役を除くと、人事・総務、企画、経理・財務、製造・製品開発、技術・環境安全・購買の5名に、副社長(秘書室、情報システム室)、社長、会長の計8名。各役員は個室を持ちそこへ出向いて説明するが、既に担当部門から聞かされているか、スタッフが同席するのでそれほど面倒なことにならなかった(担当案件で、どうしても承認印をもらえぬことを一度だけ体験しが、それについては別途本ノートで取り上げる予定である)。
 この聴き取り調査によって、トップ・スタッフ間の経営情報のやりとりが大分見えてきた。また、いろいろな面で情報システム関係者にとって勉強になった。しかし、当時の経営方式とIT環境では、真に役立つものが出来ると到底思えなかった。それでも情報システム室開闢以来の“経営トップから声をかけられたプロジェクト”を止めるわけにはいかなかった。経営者自身の声を聞くことも無く「外部情報は手入力でもいい。部門ごとの紙芝居でもいい」と突っ走っていく。
(次回予定;経営者とIT)

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