2011年7月27日水曜日

決断科学ノート-83(大転換TCSプロジェクト-20;ヴェンダーセレクション-3)

 二つのグループは要求仕様確認が固まってから約一ヶ月後、価格を含めて提案・見積書を提出した。だからといって一般競札のようにこれでオープンして価格の低い方へ決まるわけではない。仕様の確認・摺り合わせ、これによる見積もりの手直しなどの作業がある。それもEREを含めた情報交換が必要だ。この仕様確認の中で最も難しいのは、両グループの提案とも現在製品として発売されているシステムではないことだ。
 ハネウェルは既にPMX(Process Monitoring SystemのExxon版SPC)+TDC-2000(DCS)をエクソンケミカルのBaytownに納めているが、最新DCS、TDC-3000はこの時まだ最終テスト段階にあり、その上を司るSPC(Level-6と称していた)もTDC-3000 に併せて開発途上にあった。一方のIBM・横河グループはそれぞれ個別のシステムは既に納入実績があるものの、両社のシステムを結合したシステムは存在しなかった(横河は既存CENTUMのヴァージョンアップ版開発も計画されていた)。ともに将来に対する未知のファクターを抱えていたのである。機能仕様を満たすとしても、期限までに完成するか?価格は見積もり内に収まるか?東燃側の開発作業量(ACS-CENTUM間通信やACS標準機能の東燃版への改造など)はどうなるか?中央推進チームはこれらに確証を得られるまで両グループと何度も折衝を重ねていった。
 この見積内容の検討と並行して進められたのが、関係者(主に工場SE部門)への内容説明(価格を除く;私も最後まで知らなかった)とそれに対する質疑・意見聴取である。意見聴取段階ではどちらのシステムを採用したいかも話題になった(結果として最終決定に大きく影響)。
 議論は大別して以下の三分野に収斂していた。一つは基本計測制御、つまりDCSに関すること。次いでコンピュータ利用利益の源泉ともいえるSPCの機能。そして情報処理能力を中心とする話題である。
 東燃グループの主計測制御システム提供者は伝統的に横河(提携していたFoxboroを含む)である。山武ハネウェルは空気式制御システム、コントロールバルブ、オフサイトシステム、それに石油化学の第二エチレン製造装置に建設当時は最新アナログ電子式システムであったVSIシステムが採用されている程度であった。従って、研究開発から保守まで横河との人的交流は蜜で、そのサービスへの評価も高かった。この分野の人々は新システムの機能よりも“横河”を先ず選びたがった。
 プロセス制御の担当者(PSE;化学工学専攻者が多い)は制御ロジックの組みやすさや制御性の良さを問題にした。前者の代表はプロセス制御用専用言語で、ややこしいプログラミング(フォートランのような)を使わずにロジックが実現できるもの。後者は、制御周期調整、優先度付け、割り込み処理などプラントの状況に応じて柔軟な対応が可能な機能である。これらの機能は第一世代でプロコンと言う(汎用機とは異なる)特殊なシステム生み出した主因でもある。IBMのACSにはACL(Automatic Control Language)のような専用言語が用意されていたが全体が“汎用機”ベースであるため、PSE専門家にとって専用システムのハネウェルのシステムに魅力を感じている人が多かったように思う。
 情報処理はIBMの牙城、特に工場管理システムとプロコンがつながるようになると、この分野のアプリケーションが広がってきていた。とは言っても既に工場管理システムは別に設置されているので、SPCマシーンにこの分野を負わせる考えは無かった。むしろアプリケーション・ソフトウェアの移行性が焦点になっていく。

(次回;ヴェンダーセレクション-4;競札結果-2)

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