次世代プロセス制御システム、TCS(Tonen Control System)について、システムそのもの(道具)の話が長く続いた。ここからは話題をその利用面に転じていきたい。
1962年に入社して7年少々和歌山工場に勤務した。当時の東燃にあっては川崎工場が最新鋭であったが石油精製に関しては石油化学への原料供給部門の色彩が強く、精製の主力は依然として和歌山にあった。人材も豊富で錚々たるメンバーが揃っていた。プロジェクト計画が立ち上がると、大小に関わらず「こんどはどんな新しい技術があるんだ?」と部課長に問われたものである。しかしこう問いかけるからと言って、新しい技術ならばすんなり受け入れられるわけではなく、その効用を厳しくチェックされるのが常だった。焼き入れ焼鈍しを繰り返し、何度も叩かれてプロジェクトも人も鍛えられる。そうして実現した一つが初代のSPC(Supervisory Process Control;主に高度なプラント制御で利益を生む)/DDC(Direct Digital Control;比較的単純な制御を専用コンピュータだけで行う)システムである。
この初代システム導入でプロジェクトエンジニアを務めた者として、外野(川崎工場)に在っても、もう一度チャンスがあればあれもこれもとの思いは多々あった。進歩の早い情報技術 に携わっていればいくらでも“新しい”夢は膨らむものなのだ。しかし、現実は二度の石油危機を経て和歌山工場の歴史の長さと相俟って予想以上に厳しい状態に置かれていた。「今度は何が新しいんだ?!」は道具そのものではなく、専らその使い方を徹底追究する視点に変わってきていたのである。それも工場の若手を鍛えるのではなく、経営者・管理者が自らに問いかける課題としてである。
どこの製造業でも同じ目的・形態の工場が複数あるとその比較が行われる。工場経営者・管理者の成績表とも言える。Exxonはそれをグロ-バルに行っている。エネルギー利用効率、人員数、保全費、連続運転時間、事故発生件数など比較項目は多岐にわたる。和歌山工場は安全では抜群の成績を長期に続けるなど優れた指標もあったが、省エネルギーや人員数では見劣りがしていた。古い工場ゆえのハンディキャップであることは本社やExxonも理解はしていたが、工場としては少しでもこれを改善したいと願うのは当然である。石油需要が飽和し、全面的な設備更新など考えられない環境下で、この次世代プロコンシステム導入を機に工場経営の改革・改善を期待する空気が一気に高まった。
ポイントは二つ、プロセスクレジット(省エネルギーや収率アップなど)の更なる追求、人員合理化の徹底である。前者では、第一世代では大型で比較的容易に効率改善につながるプラントのみ行ってきたコンピュータ制御の対象を中小プラントにも広げ、かつ相互につながるプラントの総合的な効率を上げていくこと。後者では、多数散在する計器室を集約し、併せて運転体系を見直して合理化を図ることがその中心的なテーマとなった。しかもこれらを連携させ、さらなる相乗効果をも目論む。目指すのは“古い設備を使っての新しい工場経営”である。
本来設備償却期限に達した設備の取替え予算は、新設と違いR&R(Repair and Replacement;修繕・取替え)の区分になり経済性はそれほど厳しく問われない。しかし、この和歌山工場の挑戦は単純なR&Rの範疇では片付かず、これを実現するには幾多の困難があったのである。
(次回予定;“和歌山工場導入”つづく)
2011年9月29日木曜日
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