2011年10月6日木曜日

決断科学ノート-91(大転換TCSプロジェクト-28;和歌山工場導入-2)

 次世代導入に対する問い、「次は何が新しいんだ!?」 その第一の着眼点はプロセスクレジット(省エネルギーや収率アップなど)の更なる追求にあった。大型プラントの新規制御適用を一層進めると伴に、コンピュータ制御の対象を中小プラントにも広げ、かつ相互につながるプラントの総合的な運転効率を上げていくことにある。加えて次世代プロコンの上位に在る工場生産管理用コンピュータへの情報を増やし、経営指標(原単位や品質ロス;過剰品質によるロスなど)向上にも活用できる環境を整えることが期待された。この根本をなすのが計装(計器や信号の伝送系)システムの更新・増強である。
 古い工場・プラントの全面的コンピュータ化には、超えなければならないいくつかのハードルがある。先ず、計測点を増やすこと;古いプラントでは温度計、圧力計、流量計など基本的な計測のためのセンサーが最新のものに比べて著しく少ない。きめ細かい管理・制御を行うためにはこれらを増強しなければならない。次いで、それらの測定結果を計器室で把握できるよう遠隔化を図ること;古いプラントでは運転員が巡回時現場でデータをチェックしそこでアクションを行う現場型計器が多いが、これではタイムリーに情報処理が出来ない。そのために信号を遠隔伝送する仕組みを整える必要がある。三番目はその伝送方式を電子化すること;古いプラントでは、遠隔化はされていても、電子部品や機器の信頼性、価格、安全上の問題から長く空気式計器・配管による計測・信号伝送が採用されてきたが、このままではコンピュータに繋がらない。電子式機器に置き換えたり、変換器を付けたり、電線ケーブルを用いた伝送方式に全面的に置き換えたりすることになる。第四に古い工場は現場工事に制約が多い;段階的新増設で入り組んだプラント配置、輻輳する地中・空中を走る配管や配線、工事には余計な費用・時間がかかる。当然それだけ投資額が増える。R&R(修理・置換え)予算で済まない理由はこのような点にある。プロジェクト推進のためにはそれに合った創意工夫が必要だ。
 先ず予算面では、比較的更新費用がかからず、利益の出しやすいプラントが改善効果の劣るプラントをカバーするよう資材の調達や工事の仕方を考える。のちに取り上げる計器室統合の組み合わせや、それによる運転方式の改革で、小規模プラントの運転を大規模プラント運転要員で行える体制を作り出す、などがその代表例である。
 予算の次は更新工事である。次世代システムへの置換えの節目になるのは定期点検修理(NSD;Normal Shut Down)の時期である。1970年代中頃までは主要プラントの高圧ガス保安法に基づく連続運転期間は1年であったが、その後2年に延長された。それだけ大掛かりな工事を行うタイミングは減り、反対に工事量は増える。生産性を考えれば工事期間を無闇に延長できない。場合によっては一回前(2年前)のNSDで事前工事をしておく必要さえ生じる。従って、工事のスケジューリング、段取りには綿密な計画と実行が要求される。
 長期にわたる工場全体の更新計画は、このNSDを何度か経ながら実行されるので、それに関わる、予算・要員・時間・資材調達・工事のマネージメントは新設プラント建設に比べ倍する知恵と汗が求められるのだ。和歌山でこの役割を担ったのはMED(A)さんと言う優れたプロジェクトエンジニアである。計器室やオペレーターズ・コンソール(プラント運転操作卓)の設計に優れた美的センスを発揮する傍ら、この複雑な更新プロジェクトを計画通り完成させたことは「お見事!」と言うほかない。
(次回予定;“和歌山工場導入”つづく)

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