この次世代プロコン導入の機会にプラント運転管理体系の近代化を進めたい。和歌山工場の願いを実現するためには、新設や最新工場の更新とは異なる付加的投資に費用がかかる。これをどう回収するかが最大の課題である。プラント操業(顧客サービス向上のような周辺関連業務を除く)に限定すれば、それはプロセスクレジットと省力化(人員削減)の二点に絞られる。省力化についてはのちの“計器室統合”で説明するので、ここではプロセスクレジット(Process Credit)について、和歌山工場を主体に解説を試みたい。
後年石油精製・石油化学業界の人たちとビジネスで付き合うようになり、この言葉を使うと意外と通じないことが分かった。どうやらExxon技術用語のようなのだ。プロセスは一般的には過程・工程、工場では生産工程と言うことになるだろう。これを実現するための装置がプラントである。クレジットは評判や信用(クレジット・カードのように)が訳としてはよく使われるが、会計用語として“貸し方に記入する”“払い戻す”というのがあり、この辺が出典ではないかと考える。つまり投資に対するリターンと言うことになる。“生産工程から得られる経済的リターン”がプロセスクレジットの意味と言っていい。
同じ原料(原油)・プラントで生産活動を行っているのに使用エネルギーが少なくて済む。あるいはより付加価値の高い製品を多く生産できる。運転の仕方によって、プラントの稼働率向上や触媒の活性度低下が延長出来るのもこの範疇に入る。
石油精製や石油化学では蒸留や分解が主な生産工程を構成する。そこに使われる熱は膨大な量に上がるが、一方で処理されたものを保存するためには常温まで温度を下げる必要がある。加熱と冷却を繰り返す間に熱が無駄に消費される。このようなことを避けるためには、複数の装置を一つにまとめ熱の有効利用を図ることが望ましいが、比較的小さな装置を、時間をかけて建設してきた和歌山では、この面でも川崎の大規模統合プラント群とは差がついてしまう。一つの装置に留まらない前後の装置を含めた運転・制御体系の改善が必要になるのだ。
このようにプロセスクレジットの材料はプラントを構成する一つ一つの機器制御から複数のプラントに跨る複雑な運転システムまでいたるところに存在する。次世代プロコン導入を契機に計測・制御システムを増強して、それまで手がつけられなかったプラント運転制御方式を開発運用して、工場全体の生産性を改善する。これが利用面からの“What’s New?”に対する回答であり、これこそ新システムが生み出す直接的・具体的利益なのである。
これだけは他社から出来合いのものを買ってくるわけにはいかない(現在ではこのようなサービスをビジネスにする企業もあるが、それでも自社での開発運用体制は不可欠である)。長い時間をかけデーターを収集分析し、プロセスの特性を数理モデル化し、それに適した制御方式を開発する。次世代システムが決まる前から、限られた環境下(プラントによっては手で集めたデータ)で経済性推算のための努力が重ねられ、システム更新後直ちに実用に入れるようアプリケーションを開発していく。そのまま実用に供することの出来るものは少なく、運転環境に合わせてモデル改定やチューニングが必要になる。
この仕事を担当するのはアプリケーションエンジニア(AE)と呼ばれる人たちで、化学工学と制御工学、二つの領域のバックグラウンドが必要である。しかし、なかなかこの二つを備えた人材を新人で採用するのは難しく、どちらか一つを専攻した者の中から育てていくしかないのが当時の状況であった。和歌山プロジェクトでは、入社以来和歌山工場勤務で、FCC(重質油分解装置)の複雑な最適化制御システム実用化などに実績のある制御専攻のTKZさん、第一世代SPC実績(これが更新のための投資リターンとしてカウントされる)作りを加速するために川崎から異動した、化工で制御を学んだMURさん(二つを学んだ数少ない専門家)の二人が活躍することになる。彼らは当時この分野のエース級であり、この更新プロジェクトにかける全社的な期待を担っての登用であった。
訂正:ヴェンダーセレクションを1980年としているのは誤りで、1981年でした。それ以降の派米チームの苦悩も1年近くずれ、和歌山工場への持ち込みは1982年秋、最初のプラント、BTXの切換えは同年12月になります。訂正し、お詫びいたします。
(次回予定;“和歌山工場導入”つづく)
2011年10月9日日曜日
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