一昨日(2月29日)久し振りに製造業を対象とした富士通ユーザー会に参加する機会があった。基調講演は、トヨタで長年生産技術に携わり、その経験を基に松下電器(現パナソニック)に転じ、生産現場の業務革新に取り組んできたコンサルタントによる「海外工場のものづくりマネジメント」というものであった。
トヨタ生産方式については、書物や文献ばかりでなく、学会での交流などを通じて随分学んできたつもりであった。しかし、今回動画や作業マニュアル、作業分析グラフなどで紹介された事例は、あの「乾いた雑巾を絞る」と言われるトヨタ生産方式のカイゼン活動を間近に具体的に見るという点で、その徹底振りに感心させられた。無駄の無い流れ作業、きめ細かな作業標準化、高品質維持のための分析、15分の遅れは役員報告事項、カイゼン提案制度への取り組み姿勢(採用基準)など、単なる現場作業に留まらず、生産マネジメントの内容が丁寧に説明された。
始めは国内の自社工場で、次いで協力会社へ、さらに海外工場へこの方式を展開していくわけだが、本体で成功した方式がいきなり同じように適用できるわけではない。例えば離職率と歩留まりの関係を分析して定着率を上げたり、教育・訓練方式、さらには人事制度まで工夫してはじめて国内並みの生産性と品質が実現する。標準作業マニュアルなど国内では行間を読んでもらえばいいようなことも、きちんと文書化するのでその量は3~4倍のボリュームになると言う。人件費は安くともこの手間を考えれば、単純に途上国がコストダウンにつながる保証は無いのだ。こうした努力を重ね、1990年代まで、トヨタに代表される、わが国のものづくり技術は世界をリードしてきた。講師は生産技術の専門家、話はここで終わった。爪に火をともすようなぎりぎりの利益追求は、為替の変動で瞬時に飛んでしまう。
前回の日経の記事(わが国自動車産業のガラパゴス化)は実はハイブリッド・エンジンに限った話ではない。生産モデル、ビジネスモデルに及んでいるのだ。同じ記事の中でヒュンダイの会長が「いまやライバルはトヨタではなく、フォルクスワーゲン(VW)だ」と言っている。記事にはこの発言の真意は述べられていないが「あまねく世界(特に新興国)にそこそこの品質の車を安く提供し、確り儲けることでは」が前提ととってよさそうだ。確かにこの点でトヨタは市場に偏りが大きいのだ(比較的高付加価値車が売れる米国依存度が高い)。
今日(3月2日)の日経の一面に日産が50万円台の自動車を新興国別に開発していくことが取り上げられ、各社の低価格車の価格と対象市場(VWを除けばほとんどインドをあげている。VWは欧州・日本)が出ている。ここではタタ(印)25万円、ヒュンダイ44万円、トヨタ80万円、VW105万円。確かにヒュンダイの言う「もはやトヨタはライバルでない」はこの点で納得だが「何故VW?」との疑問は残る。少し勘繰ると、VWの世界市場に向けての長期戦略に学ぼうとしているのかもしれない。
VWは、初代ビートル(カブト虫)で早くからブラジルへ進出していたし、中国経済が開放される前から工場を持ちサンタナと言う車を生産してきた。現在でも中国市場で外国資本のNo.1である。スペインの国策会社セアト、チェコのシュコダもグループに取り込み、東欧やロシアのマーケットでは圧倒的に強い。僅かな現地体験では、同じ市場(中国・ロシア・東欧)では確かにヒュンダイ(起亜を含む)が日本車を凌駕しているように見える。
生産現場には最強のトヨタ生産方式がある。加えて、新時代に向けた市場開発・拡大モデルの創出を期待したい。
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