経営者向け情報システム、TIGERに取組む以前から、石油会社はいずれも二度の石油ショック(’73年、’79年)の後遺症に悩まされていた。高度成長が安定成長に変わり、かなりの余剰人員を抱えていたのだ。工場は要員管理が厳しかったが、本社はその受け皿や、新規事業開発で本業業務に関係しない人員が増えていた。特に、東燃は営業部門が無いこともあり、他社に比べ直間比率が45対55とその傾向が目立った。これに歯止めをかけるため、人事部門を中心に、産能大システム開発研究所のコンサルティングを受けながら、業務量20%、要員10%減の合理化計画検討が進められる。これがTIGERと重なる1981~82年のことである。
合理化の骨子は無論本社事務関連業務の抜本的見直し・再設計であったが、その中核をなすのはコンピュータ利用域の拡大である。個々のアプリケーションシステムは長い歴史を持ちながら、それぞれが独立したデーターベース(DB)を扱うに留まり、オンライン・リアルタイム利用環境(ディスプレイとキーボードで即時にデータ処理を行う)は遥かに工場の生産関連システム(受注出荷など事務処理を含む)より遅れていた。部あるいは課に一台しかない端末を大幅に増やし、関連する業務のDBを共通化して、ひとつの業務から他の業務へ継ぎ目の無い接続を実現するところに、この合理化計画の肝があった。
社長の一言で降ってわいたTIGERは結果的には、この合理化計画の先行試供システムの役割を担うことになり、“経営者が直接使うシステム”としては失敗作ではあったものの、本社全部門が参加するプロジェクトとして、情報技術への関心を全体として高めるまたとない機会を与えることになったのである。そんな経緯もありこの合理化実現のシステム化プロジェクトは開発段階に入るとTIGER-Ⅱ(経営者向けはTIGER-Ⅰ)と呼ばれるようになっていく。
本社で初のオンラインリアルタイムシステムはどんな機能を持つ必要があるか?合理化のための業務分析・設計が進むにつれて情報システム部門では、それに応えられるシステム技術の調査研究が活発化していった。基本的に広義の生産活動(販売会計や原価管理などを含む)に関する数字データは概ね社内システムから得られる。これ以外にも技術・メンテナンス・購買・環境などのデータも既存システムの改善で入手できる。問題は金融関連(例えは幾種かの為替レート)データ、製品市況情報などの外部データはどうするか?原油や傭船に関わる情報は?ほとんど内部情報で管理できる工場の情報システムとは違い、本社で扱われる情報の多種多様なことに改めて気付かされる。中でも重要なのが言語情報である。経営者や上級管理者に情報を渡す際はコメントを付すことが必須で効果的なことはTIGER-Ⅰで学んだが、それはスタッフレベルでも同じことなのだ。このシステムには日本語処理能力が欠かせないという雰囲気が強まってくる。
合理化プロジェクトのもう一つの狙いは、経営環境変化に応じて柔軟に変えられる組織作りにもあった。石油精製業そのものはそれほど業務上組織変化を必要とするものではないので入社以来ほとんど部・課の新設は無かった(情報システム室、環境安全部くらい)。しかし、新事業開発や情報技術の進歩はそれでは上手く対応が出来ない。そこで変化に対応できる課レベルの組織として“グループ”を設けることになった。ここでの整理は、課は比較的固定的な業務を行うところ。グループは臨機応変に設立し、業務内容も必要に応じて変えていくと言うものであった。情報システム室はこの考えに基づき、コンピュータ技術グループ、数理技術グループ、システム開発グループ、機械計算課の3グループ1課で構成することになった。前2グループは旧数理システム課、後の二つは旧機械計算課のメンバーが中心になったが、私は新設のコンピュータ技術グループを率いることになり、TIGER-Ⅱに向けた次期メインフレーム検討が大きな課題になっていくのである。“日本語処理に長けたシステム”がその鍵である。
(次回;各社の日本語システム)
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