2012年11月11日日曜日

決断科学ノート-122(メインフレームを替える-16;IBM・STI参加)



次期メインフレーム(MF)検討が始まった1982年は情報システム部門で重要案件が錯綜した年だった。5月に経営者情報システム、Tiger-Ⅰがカットオフ、引き続き本社事務合理化につながるTiger-Ⅱプロジェクトが動き出した。グループ全体にわたる大掛かりなプロセス運転制御システム置き換え計画、TCSTonen Control System)のトップを切る和歌山工場のBTXプラント向けシステムの稼動が秋に迫っていた。個人的にも、連休中シドニーで開催されたエッソ・イースターン傘下企業のORワークショップに参加している。
こんな中での次期MFの検討は、従来に比べ、日本語処理システムの機能に優れた国産機に関心が向いていたとはいえ、まだまだIBM中心に回っていたから、IBMに対しても日頃その重要性を訴えていた。検討しているこちらのメンバーも、私も含め「いずれ日本IBMから何か対応策が出てくるだろう」と言う雰囲気であった。
この多忙な時、5月下旬か6月上旬、IBMから今年のSTISystem Technology Institute)への参加の誘いが来た。STIとはIBMが毎年催す主要顧客向けの訪米研修ツアーである。IBMの研究施設・工場・主力ユーザーを訪問し、如何にIBMが優れた製品とサービス提供しているかを実感させ、IBMに対する認識を深めるための、言わば“洗脳”研修である。一回の参加人数を20人(社)前後に絞るので、大手ユーザーといえども数年に一回の割で声がかかる、貴重でユニークな海外研修の機会。それまでにも東燃からMTKさんを始め数人の部課長クラスが参加していた。それに今回は私が指名さたのだ。しかも、MF検討開始の時期にである。
9月中旬、渡米前研修のためIBM天城ホームステッド(研修所)に集まったのは、銀行(三井、三菱、富士、協和、福岡)、生保(日生、明治)、輸送(JALJTB)、食品(明治乳業、雪印)、製造(新日鉄、神戸製鋼、三菱重工、三井造船、マツダ、デンソー、松下、ソニー、豊田車体)、化学系からは東レ、大ガス、東燃、の計21名、これに引率者とそのスタッフ2名(全員逐次通訳可)、さらに日本IBMの研修者(国内営業)1名が加わり、総勢25名である(これに成田出発から帰着までJTBの専任者が1名同行する)。
3泊4日にわたる前研修の内容は、お互いの紹介(自己・会社・情報システムなど)から始まり、IBMから訪問先の概要、研修概要、諸注意事項の説明があり、最後にメンバーの役割分担(日々の研修内容をまとめ、帰国後全体レポート作る)を決める。団長は最年長の福岡銀行情報システム部長のTNGさん、副団長は典型的な浪速気質で誰からも愛される日本生命課長のMIRさん。この合宿ですっかり同級生意識が出来上がる。
米国へ旅立ったのは101日、帰国は23日。3週間かけての本研修である。この間異国で寝食を伴にするわけだから、同級・戦友意識は益々高まる。初めて外国へ出掛ける人が多かった時代、その効果は絶大だ。最後の仕上げは、帰国後11月中旬滋賀県にある野洲工場見学を兼ね一泊のフォローアップ研修で終わる。23年の間隔で各年のSTI参加者を縦につなぐ同窓会も開かれるので、強烈なIBMシンパグループが形成される。見事なIBM顧客篭絡戦略である。
個々のトピックは次回以降紹介するが、国産機技術評価の対象・基準を一段と見直す必要ありと感じさせる旅であったことは確かだ。
これだけのことをするにはユーザー側にもかなりの費用負担を生ずるが、確実にIBMの持ち出しである。ダウンサイジングの声が高まると伴にSTIが行われなくなったのは、あのIBMでもその負担に耐えられなくなったからだろう。IBM絶頂期にこれに参加できたことは、その後のビジネスに役立つこと大だが、この方式を再現できる会社・業種は今や存在しないのではなかろうか。

(次回;IBMSTI参加;つづく)

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