STIに参加してIBMの力の巨大さを知らされるのだが、日本の経済力、中でも製造業、その中でも電子工業が隆盛を究めている時代とあって、不思議と工場設備や研究内容に“参った”と言う感じは持たなかった。むしろ“間もなく技術的にはキャッチアップできるのではないか”といのが全体的な印象であった(経営的には遥か先を走っているが)。その一方で、この旅で問題意識を触発され、その後に影響があったことは“経営とコンピュータ(IT)”の関わりに関する彼我の取組み方の違いである。
東燃はExxon・Mobilの資本が入り、Exxonとは技術提携をしていることもあり、投資案件に関する経済性検討については早くから数理的なチェック(DCEリターン法;将来わたる支出・収入バランスで採否を決める)を採用していたが、それでもIT関係の評価は難しかった。プラント運転に直結する部分はともかく、経営の上層に行くに従って、想定を超える(数理で扱い難い)経営要素があまりに多くかつ大きな意味を持つからである。経済データ以上に経営の考え方がその採否・効用を左右するのだ。
このことは自身の体験を通じて痛感していた。最初に取組んだ、プラントを直接コンピュータで運転制御するシステム(DDC;Direct Digital
Control)や最適化制御(SPC;Supervisory Process Control)では省エネルギー・品質改善・省力化など効果を具体的に算出し、納得感があったが、次に取組んだ工場生産管理システムになると、需要や価格の変動をどう想定するかによって数字は大きく変わってくるし、波及効果の評価も考えなくてはならない。さらにこの年(1982年)の前半スタートさせた経営者向け情報システムは、社内人件費を除けば投資金額が少なかったので、“鶴の一声”で作り上げたものの、どう評価していいか皆目分らなかった。率直に言って“経営者とそれを支える上位管理職”のITリテラシーの啓蒙(関心を高めること)を如何に進めるかが最大の課題となってきていた。
STIの訪問先では見学ばかりではなく、その事業所と直結するテーマで経営との関わりが語られ、特にポケプシーの研修センターでは三日間のスケジュールの内二日間は“経営とIT”をテーマにした講義が4,5名の社内講師によって進められた。そこで使われる教材はハーバード・ビジネス・レヴューなどのきわめて実務に近い学際的な研究報告で、それまで国内で目にしていた、技術解説書や安直なハウツー物とは一味違う内容に“目から鱗”の感があった。
こう言う話の中で今でも鮮明に思い出すのは、サンホセ事業所(大型記憶装置の開発・製造)で女性事業所長(?)から聞かされた話である。一言で言うと今でいう“メガ(巨大)データ”利用の話である。経営データを大量に収集・蓄積し、これを高速で分類・分析して、経営を効果的に進めるという内容は、技術面よりは圧倒的に経営的視点からなされ、当時数理システム課長という立場から、これに類する活動にSAS(Statistical
Analysis System)と呼ばれる統計分析システムを導入したばかりということもあって、「こう言う手順・内容でコンピュータ利用の効用を説明していかなければならない」と教えられた次第である。黒い瞳と黒髪に真っ赤なスーツを纏った、グラマラスなラテン系美人の印象的な姿と伴にこの旅の今に残る思い出である。
“やはりIBMは奥が深い”。これがSTIの総括と言っていいだろう。この旅に出かけたこと、その印象を出張報告として語ったこと、は富士通にも伝わっており、ますます“IBMシンパ”ととられていたようだ。
(次回;富士通のパワー・ストラクチャー分析)
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