既存アプリケーション・システムの国産機への乗り換えについては、DBも含めてそれほど危惧する問題が無いことが分ってくると、次期システム検討(オペレーションX;OPX)は一段と活発化してくる。6月に入ると、関係者の考え方にはっきり変化が見られ、国産機採用の可能性が真剣に議論されるようになってきたのだ。
既存システムの移行性、価格がクリアーでき、日本語処理にはむしろ国産機が優れている。次の懸案事項はIBMの最新技術をキャッチアップできるのか?さらにその先を走る技術はあるのか?そのための研究開発体制はどうなっているのか?世界に広がるIBMユーザーの利用情報に代わる、ユーザー知見はあるのか?前回列挙した調査項目の③(国産次期機種見通し)④(部品を含む先端技術研究開発動向)⑤(利用知見)に関わる相当突っ込んだ考察が求められる。③④はプロジェクトチームの主に数理システム課メンバー、⑤に関しては本社合理化推進を中心になって進める機械計算課、の関心事であり責任領域でもあった。
それぞれの課題に問題はあった。③④に関しては簡単に開示できる情報ではないこと、⑤に関しては、全世界と日本の違いがある上に、国内だけでもIBMユーザーはコンピュータ利用により先進的でその数も多かった。③④に関しては、二社(富士通・日立)併走調査は止め、より積極的な姿勢を見せるところを先行させ、それとIBMを比較することにした。⑤に関しては、対象を国内ユーザー知見に絞ると伴にOA分野は先ず自社(富士通・日立)システムを見せてもらい、社内情報システム部門・ユーザー部門とさらなる情報交換の機会を設けてもらうことにした。
順序が逆になるが、先ず⑤の調査状況とその考察を紹介しよう。富士通は蒲田にあったシステム・ラボラトリー(シスラボ)に見学・説明・議論の場を設定し、ユーザー推進部門(管理本部だったと思う)の責任者も出席して、社内OA推進に関して、問題点を含め率直な情報提供をしてくれた。日立の対応も丁寧なものだった。大森のデモルームで最新のOAアプリケーションのデモを行ってくれたが、それは実用システムではなく、デモ専用システムだった。機械計算課メンバーの評価は、遥かに本社合理化計画に近い知見を得られた富士通に高かったし、IBMが日本語PC、5550で目論む日本語対応アプリケーションより優れていると断じた(6月に何台かの5550を借用しテスト使用)。
③④に関してより熱心に情報開示を提案してくれたのも富士通であった。前年のIBM・STI研修旅行参加もあり、私の関心事は専らこの分野にあった。それまで国産メーカーの先端研究開発に触れる機会はほとんど無かったので、漠然と持っていた先入観は“圧倒的に日立が上”である。特に中央研究所は民間会社の研究所として断トツのステータスを自他伴に認めるところであったから、そのスタッフに一度IBM観を聞いてみたいところであった。しかし、前年のスパイ事件の影響か、そのような提案は全く無かった。それに反し、富士通は中原の研究所(基礎)および沼津の研究所(製品開発)の見学および研究者とのディスカッションの場を設けてくれた。
いくつかの懸案事項がここでかなりはっきりしてくる。例えばIBMが力を入れているIC高密度化対応の水冷システムである。富士通はこれを強制空冷で行うシステム(素子のケーシングにエアフィンが付いている!)を既に開発済みで、そのテスト現場を沼津で間近に見ることができた。騒音レベルは高いものの実用に問題はなさそうだった。また、中原の研究所ではシリコンに代わるガリウム砒素(GaAs)素子の試作品を見せられた。GaAsはシリコンに比べ消費電力が少なく、応答性が速いので将来を期待されている素子だった(絶縁性ではシリコンに劣り、結局コンピュータ用素子としては主流になれなかったが、現在主に高速通信、発光ダイオード、半導体レーザーに使われている)。さらに、日本語の音声認識研究の一端も紹介されたが、STIで訪れたワトソン研究所(基礎)と同じ研究が“日本語”を対象に行われていることに感銘をうけた。
技術的視点で国産機の将来に不安なし。国内OA利用では一日の長あり。それにIBMユーザー情報はTCSでIBM・MFが採用されており、従来と変わらぬサービス提供が期待できる。これがOPXメンバーの結論であった。
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(次回;FACOMへの決断)
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