16. ポン・デュ・ガール水道橋
9月30日(月)もうこの旅も5日目に入った。今日はこの旅行のハイライトともいえるプロヴァンスの名所旧跡巡りである。陽光輝くこの地はセザンヌやゴッホの愛した所であるとともに、ローマの遺跡が随所に散在する。5年前この地方の旅行を計画した時もポン・デュ・ガールの水道橋見学は織り込んであった。近くにあるニームと言う町(フランスのローマと呼ばれる、2000年の歴史がある。残念ながらここは訪れていない)に、水源地ユールからローヌ河の支流、ガルドン川を跨いで飲料水を供給するために作られた水道橋である。水源地とニームの距離はおよそ50㎞、その間の勾配はわずか17mである。ローマの土木技術の高さを象徴する建造物の一つである。
この日のガイドは初めて中年後期の日本人男性、MTBさん、日本の大学で仏文学を専攻しその後渡仏、爾来29年この地に居るという。今はガイド・通訳として忙しい日々を送っているらしい。住まいは南仏の美しい町として定評のあるモンペリエ(サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路の宿場町)にあり、この日は早朝に家を出て列車でアヴィニョンまでやってきたとのこと。完全にホームグランドなのだ。
9時半にローヌ河沿いの観光バス停を発ち国道A9号線を西に向かう。薄曇りの天気は晴れに変わり、平坦な道の両側にはブドウ畑が広がる。緑の中にベージュ色の壁と橙色の農家らしきものが散在し、収穫のための季節労働者用のトレーラーハウスが時々現れる。プロヴァンスの美しい田園とは当にこのような情景を言うのだろう。しばらくするとA9を下りて、今度はプラタナスの並木道を走り、やがて水道橋観光の駐車場に至る。下車して少し先の方には3層の水道橋が見えてくると、誰もその威容に少しでも近づこうと足取りが早くなる。しかし、MTBさんは「ここで一寸待ってください」と一先ずヴィジター・センターに案内する。「何故?」という我々の表情を見透かして「これからあの一番上にある水道の中を歩いて渡ります。そのためのガイドがやってくるのを待つのです」と言うのだ。予想外(実は旅程表の中に「一番上を歩きます」と書かれているのだが誰もそれが“水道の中”とは思っておらず、脇に在る観光用の橋を歩くと解釈していた)のことに驚きと感激がない交ぜになる。
やってきたのは髭もじゃの若いTシャツを着たお兄さん(公務員である)。どうやらMTBさんとは入魂のようだ。河原から観光用橋に上がり川を渡ると渡りきったところに金網フェンスが在り、一部が開閉できるようになっている。そこのカギを開けて我々を中に入れると施錠してしまう。外に残された他の観光客が恨めしそうに見ている中を、3層のトップまで山道を登っていき、そこに取っ付くと水道の中を歩き始める。導入部は上を覆っていた石のカバーが外してあるが、直ぐに天板で上が塞がれるので内部は暗い。その前に一言説明がある。壁の両側がかなりの厚さで凸凹している。何と数百年に及ぶ送水によって出来た水垢なのだ!さすがに底の部分は歩行のために削り取ってあるが、半端な厚みではない。歴史を感じながら暗い水道の内部を50メータばかり歩けたのは、望外のことだった。対岸に渡ると件の橋管理担当ガイドが“証明書”をくれた。事前登録者だけに提供されるビジネスなのだ。
昼食は水道橋が見える大きなレストラン「La Terrace」でビーフ・シチューと生ビールを摂った。
(写真はクリックすると拡大します)
(次回;アルル)
0 件のコメント:
コメントを投稿