9.界松本
浅間温泉には30軒くらい旅館がある。数軒はコンクリート造りの高層ホテルもあるが、客室10数室のこじんまりしたところが多い。開湯は千年以上前と言われているが、少なくとも江戸時代からの湯場(松本歴代藩主が湯あみした御殿湯;枇杷の湯)も残っているので、それなりに由緒ある旅館もありそうだ。調べていくと、確か与謝野晶子など多くの文人も投宿したなどと説明されるところや、明治・大正の面影を留めるいかにも老舗風の構えをHPに載せているところもある。当初はそれらの中から口コミで評判のいいところを選ぼうかと考えていたのだが、前日草津で老舗旅館に泊まることを決めていたので、少し変わった所が無いものか更に調べを進めてみた。その結果目に留まったのが界松本である。
先ず建物の外見が極めてユニーク、“旅館”というより小規模なイベントホールの様な感じなのだ。施設内容を調べると、和室、洋室さらにそれに露天風呂が付いたものなどそれほど普通の旅館と違わない。客室数が26というのも手ごろな大きさである(団体客は入らない)。更に調べていくとこれが星野リゾートグループであることが分かってきた。どうやら老舗温泉旅館で経営に行き詰ったところを買収し、再建したところを“界”チェーンにしているのだ。ここもその一つ、旧名は貴祥庵とある。予約状況をみると繁盛していることが分かるし、口コミも決して悪くない(悪いのもあるが“星野リゾート”への期待値とのギャップと言っていい。実際星野リゾートとそのカリスマ社長には毀誉褒貶多々あり、評価は分かれる。典型的なのは“ぼったくり”(これは界ではなくリゾート系;中国人には人気らしい)。「一度体験してみよう」こんな気持ちで2泊目をここに決めた。
この温泉街は他とは違い、土産物屋や飲食店が無くまるで住宅地のようだ。ナビが「目的地周辺です。ここで案内を終わります」と言われてもそれらしき建物が見つからない。左側は高い塀が続く、するとその先の小さな看板に“界松本”と書かれていた。塀の内側が旅館の敷地だったのだ。看板の所を廻り込んだ所が駐車場。計画検討中に見た円筒形の奇妙な構造物が目の前に屹立する。しかし、その円筒形部分には入口は見つからない。よく見るとその右の内塀に小さなくぐり戸がある。ここがロビーへつながっている。円筒部分は高い天井の吹き抜け、ロビー、フロント、土産物コーナーなどがある。結論からいえば、この旅館の建築上の特徴はこの円形多目的ホールと、もう一つ宿泊・飲食施設がある本館?との間に在る中庭につきる。
部屋は一番安い和室“スタンダード”にしたので、口コミでは評判の部屋専用露天風呂は無いし、売り物の北アルプス遠望もできない。しかし、広縁や収納コーナーを含め広さは充分、トイレ・風呂・洗面(二人分ある)も清潔で申し分ない。大浴場(露天風呂、2種のサウナなど併設)も明るくて気持ちがいい上に、誰も入っておらず、のんびり今日一日の疲れを癒すことできた。
夕食は一階の和風個室(掘り炬燵形式で外国人にも抵抗が無いだろう)を連ねた一つでいただく。メニューは、これも“スタンダード”にしたが、地産の野菜や鱒など使いまずまずの出来、量は充分すぎるくらいだった。
夕食後ロビーを兼ねたホールで8時過ぎからフルートとピアノの演奏会があった。軽くアルコールなど飲みながら聴くのはなかなかの雰囲気だ。子供がいたのでジブリ映画の主題歌なども演じられた。日によってジャズなどもあるようだ。最近はこのような催し物サービスの有るところが増えているような気がする。ただし、都心で本格的に楽しむものとの差は大きく、まあ余興というところである。
旅館の周辺は静かで、ゆっくり安眠できた。早朝一風呂浴び、前夜と同じ個室で伝統的な和朝食。これもまずまずであった。
界松本の感想;価格(3万円弱/一人)やサービス、設備も含め総合的にはまずまず(5点満点で3.5)。とにかくスタッフが若い。一生懸命やっているのは好感が持てるのだが、健気さが表に出るほどで、経験を重ねた滑らかさが無い。多分報酬は安く、ベテランは去っていくので若さが際立つのではないかと勘繰ってしまう。
今回は草津の老舗といい、ここといい、誠心誠意サービスこれ努めているのだが、何か経営の辛さ・厳しさを感じてしまった。これも歳をとったからだろうか。それとも根が貧乏性ということだろうか。考えさせられた2泊であった。
(写真はクリックすると拡大します)
(次回;美ヶ原へ)
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