11.ポストTCSの動き
会社設立の切っ掛けとなり、最大の差別化因子でもあったTCS(Tonen Control System;IBM汎用機上で動く高度プロセス運転制御システムACSと横河電機製分散型ディジタル制御システム(DCS)CENTUMを一体化した統合的なプラント運転制御管理システム)は我が国初導入(1981年)後既に10年以上経過していた。まだ引き合いはあったとはいえ、PCやワークステーションへのダウンサイジングの流れが明らかになった90年代、次の備えをすることは、化学プロセス特化の会社として、生き残りの必須条件であった。業容拡大のために米国CDS社の生産管理用ソフトMIMIの国内販売独占契約を結んでいたものの、これはリアルタイムでプラント運転データ収集処理を行うTCSの領域とは異なる適用分野のものである。
化学プラントの運転管理はいくつかの機能で成り立つ。まず手持ちの原料から市場が要求する製品を効率よく作り出すための“生産計画立案”。次いでこの計画に沿った運転が出来ているかどうかを検証するための運転データの“収集・表示・記録”。もし計画した目標値と実際の運転に差異があるときにはそれを正す“制御”を行う。いずれの機能も重要度は甲乙つけがたいが、根幹をなし手間のかかるのは何千何万とある計測値(温度、圧力、流量、液位など)をリアルタイムで収集する部分である。一方で付加価値を高める活動は計画立案と制御の役割である。この時までの手持ち商品では計画立案をMIMIが行い、リアルタイムデータの収集と制御をTCSが担うことで顧客ニーズに応えていた。TCSに代わるものをどうするか?大きな経営課題であったのだ。
TTECシステム部でTCS販売を始めたときから、顧客もパートナーであるIBMや横河電機の期待も、“東燃の持つプロセス制御ノウハウ”を入れ物であるACS+DCSに付加提供するサービスにあったし、我々もそれを望んでいた。しかし、会社設立に際しExxonとの技術提携契約の制約からこの分野への進出が禁じられてしまう。何とかそれをかいくぐる方法はないものかと模索している内に時は過ぎ、市場を観てみると、意外とプロセス制御アプリケーションが我が国では商売になっていないことに気が付いた。背景に、米国企業を代表とする本分野へのサービス価格が高価過ぎること、プラント挙動の詳細把握は終身雇用制度の下では現場技術者に外部の者はなかなか太刀打ちできないこと、などがあること分かってきた。それに比べ、CIM(統合生産管理システム)やSIS(戦略的経営情報システム)など経営面からITを積極利用しようと言う動きの中で“実績データ”の重みがクローズアップされてきていた(今の“ビッグデータ”活用につながっていく)。
翻って、東燃グループにおけるTCS導入プロジェクトを見てみると、総額では百億円を超す大プロジェクトであるが、その経済的リターンは大きくプロセス制御の高度化と省力化に依って成り立っていた。しかし、注意深くフォローしてみると、実績データが思いのほか広範囲に活用されだしてきていたのである。プラントのお守りをするユニットコーディネータ(化学プロセス技術者)は運転解析やプラント改善に、保全部門は機器の稼働率や効率チェックに、プラント運転員は運転改善提案の裏付けにTCSを上手く利用しているのである。
加えて私自身の経歴もここへ着目することを後押しする。1969年から1981年至る川崎工場在籍中、ほとんどの期間工場管理情報システムの計画検討とその構築に関わってきた。そこでユーザー部門が第一に要求していたことは「精度・信頼度の高い実績データを、アクセスしやすい環境で提供してほしい」と言うことだった。難しいのは制御や生産計画立案と違って投資回収シナリオをどう作り上げるかだった。それさえ突破できれば工場長から各部門の担当者まで広く利用されるようになるのだ。
「制御機能は一先ず置き、リアルアイムデータ処理を重点的に調べてみよう」ポストTCSの焦点が少し定まってきた。
(次回;ポストTCSへの動き;つづく)
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