3.ホテル・リッジ-2
チェックインの際、夕食時間を聞かれたので6時半を頼むと、「ダイニングは少し離れておりますので、お車でお送りします」と言われてチョッとびっくり。それも件のリムジンだとのこと。Gパンの着たきり雀でやってきたので思わず「服装は?」を問うと「浴衣・丹前に備え付けの下駄で結構です」との答えにホッとする。
時刻になり例の黒塗り小屋のフロントに行くと、既にリムジンが待機している。私は米国でこの手のクルマに何度か乘っているが、家内は初めて、中の広さにびっくりした風、乗車時間は2、3分だがVIP待遇にご満悦だ。確かに明るければ徒歩で10分程度、大した距離ではないが、途中にまったく人家の無い暗い夜道、それも登りではこんなサービスも必要だろう。それにしても何故こんな離れたところにダイニングがあるんだろう?
迎えられたのは和風の如何にも古そうな建物、下駄を脱いで上がると4人一席のテーブルが三つ置かれた高い天井の広間に案内される。和風の食堂にもかかわらず机椅子は洋式。サービスするのはこれもスーツの男女。しかしよく考えられた内装と家具で、違和感がない。客は中年の夫婦が一組、静かに食事中だった。
ネット予約の時のプランにはほとんど選択肢はなく、“お品書き”を観ると創作和風料理だが何とは無く洋風。メインが阿波牛のしゃぶしゃぶなのでビールではなくワインを頼むことにする。食材は地場・季節のもので、蓮根・わかめ・牡蠣やフグなどが思わぬ調理方法で供され、平凡な懐石料理でないのが良い。量も適量、タイミングも絶妙、歳をとるとこれは有難い。蓮根の炊き込みご飯は珍しくお代りをしてしまった。8時過ぎ食事を終えると再びあのリムジンでご帰館。
部屋の大きな窓からは鳴門大橋の警告灯や行き交う船の明かりだけが見え、あとは漆黒の闇、両隣のコッテージから物音は全くしない。TVで野球の国際試合を観ているうちに眠ってしまった
6時過ぎには目を覚ます。丁度鳴門大橋の向うから朝日が昇り始めている。今日は晴天だ。ホテルへ泊まるといつもそうだが先ずシャワーを浴びる。あの四面ガラス張りの中に初めて入る。誰も見ているわけではないが、さらし者?否動物園の動物になったような奇妙な感じである。
朝食は7時半から、夕食と同じ場所と聞いていたので、フロントに「リムジンは不要、徒歩で行く」と伝える。高い生垣とコッテージの間にある狭い歩道を進んで行くとコッテージが切れた先は地面がむき出しの、木立の間から瀬戸内海が見える遊歩道、歩いてみると登り坂は結構きつい。やっとたどり着くと入口は昨晩とは別の所にある。ダークスーツにネクタイの従業員に迎えられ案内されたのは三つの和風客間がぶち抜きになった、別の食堂。すべて畳敷き・各客間には床の間がある。明らかに本来は日本間、瀬戸内側には縁側があり、古風なガラス戸がはまっている。ここに昨夜同様椅子席が設けられているのである。床の間には掛け軸や陶器の置物、天井が少し高いのだろうか、椅子席でもアンバランスな感じがしない。食事は純日本風、今朝きちんと調理されたことが分かる献立だった(最近は干物や豆腐を席で火を入れるような“手抜き”が多い)。ただ大失敗だったのは入れ歯を部屋に置き忘れ、酢の物(タコとわかめ)に手を出せなかったことである。
この食事場所のユニークさについて、退席する際従業人に聞くと、「もともとは三井家の箱根にあった別荘を解体・運搬し当地で組立・改築したものです」との答えが返ってきた。ホテル本体とはスタイルが全く異なること、地元の料亭としての使途なども考え、少し離れたところにダイニングルームを設けたようだ。
ところでこのホテル・リッジだが、それがどのような経営母体なのか知らずに「こちらの希望にそうところ(チョッと高いが)」で予約した。チェックアウトする際それを問うたところ「大塚製薬のグループです」と回答があった。鳴門は大塚製薬発祥の地、陶板名画で有名な大塚国際美術館も来る道筋に在った。オーナーの好みで作られたホテルを堪能させてもらったわけである。
(写真はクリックすると拡大します)
(次回;うずしお観光)
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