11.ポストTCSの動き-3
1990年代初期のSPIN経営におけるプラント運転リアルタイムデータ収集に関するソフトウェア動向を解説し始めて、2ヶ月も間が空いてしまった。少し重複するが、そこのところを振り返ってみたい。
石油や化学など装置工業では生産工程が外から目視できない。しかも層(液体、気体)の変化が起こる。状況把握は、温度・圧力・流量(流速・容量)あるいは一部の品質などを計測器で行い、そこから装置内の挙動を推算・推察する。従ってリアルタイムデータ収集はプラント運転の基本要素である。プロセス工業に特化したSPINとしては欠かせぬ商品でありサービス提供領域であった。最初に取り扱ったACSはExxonとIBMの共同開発製品、これで会社のスタート(1985年)から他社との差別化に成功し、小なりと言えども当該分野では、短期間で存在感のある会社になれた。しかし、それも東燃に導入してから10年を超す時間を経て、IT環境の更なる進歩と併せて、陳腐化は否めなかった。次期リアルタイムプラントデータ収集システムをどうするかが、大きな経営課題になってきていた。これが前2回(33回、34回)の要旨である。
そんな時目にしたのが世界的な石油業界誌“Hydrocarbon Processing”(1992年5月号)に掲載されていた、Patrick Kennedy著「Integrated real-time data with decision support」なる論文だった。先の2回でも述べたように、プラントのリアルタイムデータ利用先はプロセス制御との関連が強く、ユーザーもベンダーも先ずその面での機能に注目するし、ビジネスの引き合いも多く、学問的にも評価される。しかし、実態としては個々のプラント特性をよほど熟知していないと、なかなか効果的なシステムを構築できない難しさがあり、商売としてはハードルが高かった。それよりはむしろ、正確で信頼できる単純な生データをタイムリーに分かり易く提供する方が、日常の工場操業管理には役立つことを、長い工場勤務、中でも工場操業管理情報システム構築・運用の経験から知らされていた。その視点から特に興味を持ったのが“Decision Support”と言う言葉である。時あたかもCIM(Computer Integrated Manufacturing;統合生産管理システム)が喧伝されていた時代、工場のデータが市場や経営と直結し始めていたのだ。
読んでみると、プラント運転のリアルタイムデータが、生産管理・品質管理・設備保全管理・安全環境管理さらには会計管理などに深く関わることを説く内容だった。そしてそのカギとして、如何に連続するデータをコンピュータの限られた記憶領域に実効を損なわずに取り込むかが簡単に記されていたのである。これも前2回で取り上げているが、プラントデータ収集がアナログからディジタル変わることの唯一の欠点は、データが間欠的にしか取り込めないことにあった。これは当時のコンピュータ中央演算処理装置(CPU)の処理スピードと記憶装置の容量制限から来ていたので、データの中で重要な意味を持つ“変化”をスキャン間隔の谷間で落としてしまう恐れがあったのだ。その文献ではCPU速度が著しく向上すると実用上問題なくその変化点前後を記憶装置に残すことが出来、その情報が工場管理や経営管理に活用できるということを強く訴えていた。「これは使えそうだ!」瞬時にそう思った。米国での本書の発刊は5月だったが、私が論文を目にしたのは夏も終わるころ、取り敢えずコピーを取り、しばらく同種の情報収集に努めることにした。
(次回;OSIとPI)
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