9.高千穂峡
阿蘇山の噴火によって流れ出た溶岩が数万年かけて浸食され出来上がったと言う渓谷。観光用の写真で見ると切り立つ岩壁の下に緑の深淵が静かに広がり、岩肌を滝が流れ落ちる。何とも魅力的な景観だ。それに廃線になった高千穂鉄道の鉄橋の話はいろいろな書物に紹介されているし、ロマンをかき立てられる。山岳ドライブの楽しみとこの地への憧れから、この日の移動コースの目玉として設定した。
渓谷の上下流が見渡せる所まで来て「なーんだ。この程度か」が第一印象。幅も高さも鬼怒川辺りとさして変わりがない。それで思い出したのが半世紀前に当時の国鉄が大々的に展開した観光旅行キャンペーン“ディスカバー ジャパン”の宣伝写真である。どれも素晴らしいものだったのだが、どこかの週刊誌がその撮影場所を、広がりや角度などを変えて種明かしした。広告用写真はトリミングで美しく整えられているが、全景は何ということもない風景なのである。
多くの観光客に交じって遊歩道を、見所である真名井の滝に向かって、アップダウンを繰り返しながら歩いていくが、期待した絶景とは程遠い。滝の近くは少し広くなっており高さも川幅もかなりあり、流れも穏やかで広い水面が広がる。両面は切り立つ岩もあり、川にはなん艘かボートも浮かんでいて、よく写真で目にする光景が眼前にあるのだが、イメージしていたものに比べスケールあまりにも小さい。
しかし、観光客はこんな天気でもよく集まっている。明らかに日本人でない東アジア人(中国人や韓国人らしい)の団体もいくつか見かけた。写真をせっせと撮っているところを見ると、それなりに日本らしい景色なのかもしれない。
渓谷観光の中心地、御橋(みはし)まで歩き、橋を渡ったところにある売店と食堂が一つになった店で遅い昼食を摂る。本館は団体客で埋まっており、個人客は別棟のプレファブ食堂に案内される。ここで観察していると、若い男女の中国人小グループや西欧人と思しきカップルが注文取りのおばさんと何とかコミュニケーションして、日本式定食や麺類を食しており、海外からの個人旅行者が、こんな足の便の悪い所まで出かけてきていることに驚かされる。私の昼食はイノシシ肉入り鍋焼きうどんだった。
(写真はクリックすると拡大します)
(次回;宮崎)
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