8.SPINの将来を考える-2
1997年7月に「SPINの今後についてまとめ欲しい」とチェンジチームに告げられ「いよいよ来るものが来たな」となるわけだが、ある程度予想していたことだったから意外な感じはしなかった。それまでに一人でこのことについてあれこれ考えていたので、それを整理し、役員・部長の考え方と突き合わせて落としどころを探ることにした。いくつかのゴール案は; 1)東燃グループからの出向者は東燃グループに返し、プロパー社員には退職金を払って、会社を解散する、2)機能・組織を分割して、一部をグル-プに戻し、グループに不要なものは他社に人を含めて売却する、3)経営陣と社員の一部で株式譲渡を受けてSPINを存続させる。いわゆるMBO(Management Buy Out)に近い、4)取引先(IBM、富士通など)に株式譲渡してもらい、その下で再編成する。5)SPINのまま買い取り、経営形態をしばらく存続させてくれる株主を探す、こんなところである。
チェンジチームからの申し入れがあったこと、その概要は直ぐに役員・部長には話をしており、夏休みが明けたら適宜時間外に会議を持ってお互いの考え方を摺り合わせることにした。無論他言無用は言うまでもない。
9月から始まった検討会メンバーは、総務部長、営業部長、開発1部長、開発2部長、技術部長、ルネサンス事業部長、非常勤役員・監査役を除く私を含めた3人の常勤役員。週一度定時以降に集まり、2~3時間かけて、先ずチェンジチームからの申し入れそのものの受け入れ可否から検討に入った。期限を限った早期退職も始まっている現状から、チェンジチームの提案は受け入れざるを得ないとの結論には直ぐ達した。いよいよ本題である。
先ず1)案に対しては、東燃出向者(プロパー社員と役員を除く大部分)の中に、早期退職積み増し金に傾く人がかなり出そうだとの見通しがあるものの、プロパー社員の多くはまだ退職金対象年限に達しているものが少なく、従業員全体の今後の生活に大きな問題が出そうなこと、既に営業開始から12年、取引先は大小相当な数に上がっているが今後のサービスを如何に提供していくか良い対応案が見つからないこと、から早々に候補から落とすことにした。2)案は1)に比べれば実現の可能性はやや高いものの、機能・サービスによって売却可能性が異なり、最も大きなビジネスの一つになることを期待されているERPパッケージ“ルネサンス”の扱いがこの段階では難しかった(果たして引き取り先が現れるか?)ことから優先度の低い選択肢になった。3)案のMBO、東燃はSPIN全体を整理したいことから、役員・従業員に損をしない範囲で株式譲渡してくれることが予想できるものの、情報サービス業にとって命ともいえる信用力が著しく低下する恐れがあることから、これも積極的に取り上げないことになる。4)案、5)案は基本的に同じ性格を持つ。SPINをそのまま引き取る、株主が変わるだけで、各種商権・顧客・資産(主にコンピュータ・システム)・人も従来の姿を継続できる。ただ明らかに違いがあるのは、最も有力な候補である、IBMと富士通は我が国情報産業市場において強力なライヴァル同士であることである。富士通傘下になればIBM顧客が離れる恐れがあるし、その逆もある。またこの両者は、既にユーザー系情報サービス会社を何社か子会社化しているが、組織の再編成に素早く取り組み、元の会社の特徴を削ぐ傾向が強かった。これは他の大手システムインテグレータも同じで、プロセス工業特化を売り物にしてきたSPINとしては、このような全方位経営型大手情報サービス企業に帰属することが適当ではないとの意見が強かった。そこで浮上してきたのが10月に、新しい経営戦略を大々的に打ち出してきた横河電機である。その新戦略の呼称はETS(Enterprise Technology Solutions)、もともとプロセス工業を主要顧客とする会社がソリューションビジネスに進出すると宣言したのである。
(次回;SPINの将来を考える;つづく)
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