2017年6月6日火曜日

決断科学ノート;情報サービス会社(SPIN)経営(第3部;社長としての9年)-15


8SPINの将来を考える-4
東燃の置かれた状況(株主の強い本業回帰意向)、情報サービス産業業界で始まっていた再編成の動き(特にユーザー系子会社)などを勘案すると、もはや現状(東燃100%)のままグループに残るのは不可能だし、それを予見して役員・部長で対策検討を始めていたが、東燃から完全に離れることには引っかかるものはあった。マイノリティになっても東燃が株主として残ってもらえないだろうか?こんなところが大勢である。そんな雰囲気を、状況が分かっているチェンジ―チームの若手メンバー(一番クールにこの問題と取り組んでいた)にぶつけてみると「コアービジネスかどうかが論点なので、石油関連以外に業容を広げてきたSPINはダメでしょう」との答え。それをメンバーに伝え、自分なりに今後の身請け先の条件を洗い出してみた。
1)「是非欲しい」と引き取ってくれるところ。
2)東燃と親密な関係にあるところ。
3)従業員の雇用継続を保証してくれるところ。
4)願わくはしばらくSPINのままで経営を続けさせてくれるところ。
5)財務体質の良い会社。
6IBM/富士通と等距離にあり、両社と良い関係にある会社。
7)プロセス工業を主要顧客の一つとする会社。
8)業界トップクラスで、グローバル化もかなり進んだ会社。
随分虫のいい要件だと思っていたが、最初から条件を落とすこともないと考え、役員・部長検討会では具体的な項目は明かさず、これらをそれとなく議題として提示していった。
予想通り、議論が沸騰したのは6)項である。IBM/富士通は世界そして日本を代表する情報技術会社、長いことユーザーとして付き合ってきたし、SPIN創設来最も力になってくれたパートナーでもある。一般従業員も含めて両社およびその機械や技術に慣れ親しんできた歴史がある。どちらかと言うと技術系はIBM、事務系は富士通により親しみを感じている。だからと言って誰もSPINを二分したいとは思わない。ではニュートラルな会社はあるのか?等距離となっても遠ざかるのでは意味がない。
そんなジレンマに方向性を見出すヒントは項目7)にあった。技術系も事務系もこの10数年の営業歴からSPINの最大の強みがプロセス工業にあることはよく分かっていたし、誇りさえ持っていた。IBM、富士通と雖もセグメントをここに絞れば、第三者が株主になっても、直接的な競合者でなければ、今までの関係を継続してくれるに違いないと。
ではどんな候補者があるのだろう?大規模システムインテグレータ(例えば芙蓉情報システム;東燃のメインバンクは興銀・富士だった。伊藤忠テクノサイエンス;科学技術系アプリケーションに強かった)、エンジニアリング会社(例えば日揮、千代田化工)、情報サービスに強いコンサルタント会社(例えばアンダーセン、プライスウォータ;東燃の監査法人はPW)。例示したような会社が対象として浮かんでは消えていった。
そんなとき横河電機が突然ぶち上げたのが“ETSEnterprise Technology Solutions)戦略であった。「横河電機がソリューション提供?!」「確かにプロセス産業を主要顧客にしているが、ユーザー知見は無いに等しい。どうするんだろう?」
1997年秋、横河電機は赤坂プリンスでこのETS戦略お披露目のフェアーを開催、美川社長がソフトシフトを高らかに宣言する。その中に「我々がお客様の問題を解決するにはユーザー知見が足りません。どうか皆さまの中で余剰人員があるようでしたら、是非当社に一声かけてください」との一言があった。おまけにそのあとの懇親パーティの席で、日揮の社員で旧知のTJOさん(故人)から「横河電機がSPINさんのようなビジネス始めるね」と言われる。これで第一候補が胸の内に決まった。


(次回;横河電機への株式譲渡)

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