2017年9月9日土曜日

決断科学ノート;情報サービス会社(SPIN)経営(第3部;社長としての9年)-29


13.海外提携会社動向-4
企業経営には種々の機能がある。製造業ならば、研究・開発、製造・技術、営業・販売、受注・出荷、購買・調達、人事・労務、経理・財務、総務、広報、経営企画それに情報システム。企業へのIT利用の歴史を振り返ると、最初はこれら機能の一部をコンピュータで処理するところから始まった。そしてその処理手順は各社各様、手作りのプログラムを開発して機械化・自動化を進めていった。この手作りプログラムは、担当者や特定の機械に依存する度合いが高く、運用維持・改造に手間と費用がかかるとともに、早い技術変化にタイムリーに対応するのが難しくなっていった。ここで登場するのが、適用業務ごとに作られたパッケージソフトである。SPINの例で言えば、プラントのリアルタイム運転データを収集するPI、生産計画を立案するMIMI、あるいは保全管理に供されえるPLAMI、品質管理を行うLabAidなどがそれに当たる。また事務部門では他社に販売はしなかったものの東燃グループ各社共通の経理システムFASTなどもこの範疇に含められる。
しかしながら、これらのシステムは機能ごとに独立したシステムで、工場全体や全社の経営を横断的に把握するには、新たな手作りソフトでつなぐことが必要になる。ここで再び最初の問題(手作り)に戻ってしまうのである。これを解決するためには、初めから個々の基幹業務をカバーするとともにそれを統合的に扱えるシステムが望まれるのである。こうして1990年代半ばに登場したのがERPEnterprise Resource Planning;基幹業務統合)パッケージであり、プロセス工業の総合的なシステムインテグレータを目指すSPINにとって、それぞれの機能で優れたパッケージを持ってはいるものの、それを統合する機能は依然手作りであったことから、この分野への取り組みが不可欠となった。
トップランナーはドイツのSAP社、かつてのIBM同様突出した優位性で価格が高く、我が国で導入し始めたユーザーも超大手に限られていた。また、プロセス工業に特有な機能が当時は整っていなかった。つまり当社で扱うには、あまりにもハードルが高い製品であったのである。そんなとき(1993年末)に知ったのが米国Ross社のルネサンス(Renと略す)と言うパッケージで、1994年に総代理店のなっていた(本件経緯については-3、-4に既述)。決めた理由は、主たる(米国における)導入企業が中小・中堅企業で、プロセス特化(特に食品・薬品・化粧品・特殊化学品など)も進んでいたことによる。総代理店になるための契約条件で最大の問題点は、年間販売ノルマ、年々伸ばす方式で、初年度から2億円程度支払う必要があった。これは経常利益の半分を超す額だが、横河への譲渡前は内部留保もかなりあったので、先行投資として決断した。その後売り上げは伸びてはいたものの、経営への負担は依然として重く、横河譲渡調査の際「Renに社運を賭しているように見えますが・・・」と問い質されたほどであった。新規顧客は電子部品や食品、食肉・鉄鋼商社などに広がっていったものの、ノルマとして納める額が高すぎて、全体利益になかなか貢献しなかった(売上増には大きく寄与)。そこで1999年その引き下げ交渉を、当時事業部長だったYNG-Kさんを主体に取り組んでもらい、それに成功、2000年から売上利益率が大幅に改善した。私がSPINを去る少し前には特殊化学製品ではトップクラスのダイセル化学が全社的に採用するところまでになり、我が国マーケットでの存在感も出てきた。
やっと順調になり出した日本における市場開拓だったが、進歩の速いIT環境変化対応が、もともと強くなかったRoss社の財務上の負担となっていたこともあり、香港資本が導入され、これが筆頭株主になって、経営陣が大幅に入れ替わる。しばらくすると日本法人が設立され、総代理店の権利はそこに移る。2007年販売や技術サービスは日立システムズが担当するようになり一部メンバーはそこに移り、それを良しとしないユーザー企業の要請もあったようで、MTSさん、KWNさんらRenビジネスの中核スタッフが、導入技術サポートとメンテナンスを主務とする会社を設立して独立していった。横河グループの情報サービス会社統合再編成により“システムプラザ”が消滅したこともあり、独立新会社の社名は“システムプラザ(SPIN)”を名乗っている。

結局、SPINの発展を支えてきた、OSI社のPICDS社のMIMIRoss社のRenaissanceはそれぞれ事情は異なるものの、総代理店の権利を手放すことになった。総代理店はともかく、ソリューションビネスを標榜するとき、ソフトベンダーとの関わりは極めて重要なのだが、その認識が横河電機本体に希薄だったような気がしてならない(私の努力不足もあるが・・・)。参考にすべきはやはりIBMである。表計算ソフトのロータス社やシステム監視ソフトのTivoli社およびプライスウォータのコンサルティング部門買収は1990年代、SPINとも提携したフランスの国営研究機関がスピンオフした数理システム特化のILOG社(SPINはこの会社の提供する“組み合わせ問題解法ソフト”のシステムインテグレータでフィルムや板の型取り最適化やディズニーランドのスタッフ勤務システムを開発した)もその後傘下に収め、情報サービス会社に大変身した。横河にとって昨年の石油精製・石油化学技術コンサルタント会社KBC社買収が転機であってくれればと願うばかりである。


(次回; EM合併と東燃経営)

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