2018年12月13日木曜日

山陰ドライブ1800km-10



-因幡・伯耆・出雲を走る-

9.皆美館-2
日本旅館を調べている時、いつも一番気になるのが夕食の内容、特にその分量である。最近はシニアメニューもあるので、もしそれがあれば好ましいと考えるからだ。しかしここの宿泊プランには、部屋の違いはあっても食事には差が無かった(シーズンや特別料理は別にして)。
チェックイン時確認予約した夕食時刻7時になると、先ほど部屋へ案内してくれた女性が迎えに来てくれた。来るときは庭を経由したが、今度は本館と別棟と結ぶ短い回廊を使う。外とつながる出入り口は保安のため夜間は閉じてしまうからだ。案内されたのは4人用の個室、残念ながらライトアップされた美しい庭を眺められる部屋ではなかった。まあ二人だけで気兼ねなく過ごせることで良しとしよう。
話は予約検討時に戻るのだが、数年前から親しくなった同年の元銀行員から、大阪の支店に勤務中(30年以上前)松江が郷里の先輩にこの地を案内され、素晴らしい料理をご馳走になったことを聞かされていた。しかし、店の名前は失念してしまったといかにも残念そうだった。10月初旬彼と会ったとき「松江の宿泊先は決まりましたか?」と問われたので「皆美館です」と答えると「アッ、そこですよ!」と我がことのように喜んだ。彼はその時宿泊はせず、料理に招かれただけだったが、その内容と庭の美しさが忘れられず、推薦したいと念じていたようであった。それもあって「出来れば庭を観ながら」と期待していたのである。
用意されていたのは会席料理;食前酒(梅酒)と先付から始まり、前菜から吸物、刺身、焼物、煮物と続きメインは少量のローストビーフ、松茸ごはん(吸物、香の物)、デザートで終わる。それぞれの料理の説明を聞くと、魚は無論、鶏、牛肉、野菜も地場のもの、いずれも上品な味で量も適量、器もそれぞれの料理と合い品がある。これをこの晩は大好きな生ビールをひかえ、最初から“プレミアム地酒飲みくらべ(燗酒5種を大きめの杯に分けトータルで1合半くらい、これが一度に並べられる)”で味わった。普段日本酒を嗜まない者にとってこれは思わぬ体験であった。料理が変わるたびに、あれこれ飲みくらべるとそれなりに違いを感じ、自分なりに料理との相性を合せて食事を楽しんだ。どちらかと言うと洋食とビール・ワイン好みだが、この晩の料理と酒の組合せから、この歳になって「これから旅館に泊まったら、もう少し日本酒にこだわってみるか」と思うようになった。チョッと気になったのは料理が出てくるタイミング、始めの頃は少し早め、後の方はかなり間が空いた。冷めた作り置きを持ってこられるよりははるかにましだから、まあ不満と言うほどではない。
部屋へ戻ったのは8時半、日本シリーズを少し観て、もう一度内湯に浸かりあとは爆睡。朝6時過ぎ目覚め外を見ると遥か南西方向は明るいが、湖上は雲がでて時々驟雨が来ている。もう一度部屋の温泉に入り、ガラス戸を開け放ちひんやりした空気の下で露天風呂気分を味わう。
朝食は8時半から、今度は仕切られているがオープンな食堂で摂る。席は庭に面しており、やっと願いが叶う。メニューは有名な鯛めし。それまで食したことのある鯛めしは、いわゆる炊き込みご飯で、鯛の身はかき混ぜることでほぐれてご飯と一緒になるものだったが、ここのはまるで違う。鯛をどのように加工するのか不明だが、薄いピンクがかったそぼろ状になっていて一見それとは分からない。卵の黄身・白身も同様に調理され皿に盛られて供せられる。これをご飯の上に乗せ、香の物や佃煮などの具を添え、さらに好みによってわさびを加え、秘伝のだし汁をかけて、お茶漬けのようにして食べるのである。アイディアの元は、第7代松江藩藩主で茶人としても名を成した松平治郷(はるさと;不昧公)と伝えられている。吸物は無論宍道湖のシジミ。何とも優美で美味しい、忘れられない朝食、未知の地を訪ねる楽しみを合せて噛みしめた。
チェックアウトの際、ロビーに掲げられた色紙や写真を眺めると、当地に縁の深い小泉八雲を始め、芥川龍之介、与謝野晶子、島崎藤村、志賀直哉、川端康成、岡本太郎、棟方志功など錚々たる文人・画人がここで過ごした日々が偲ばれ、時間はともかく彼らと空間を共有できたことに得も言われぬ満足感が沸いてきた。「ここに泊まって本当に良かったな~」と。

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次回;松江観光


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