-因幡・伯耆・出雲を走る-
13.オーベルジュ天空
最近は地方観光地の宿泊先を選ぶとき、温泉地を除くと、小規模なホテルを好んで選ぶ。歳をとると畳の部屋より洋室の方が楽なことが一番大きな理由だが、昔のペンションなどと比べて、総じてこの種のホテルの質が良くなってきているからだ。特に料理に工夫と努力が感じられる。昨秋の裏磐梯、昨夏の琵琶湖湖西、2015年秋の屋島、いずれも当たりだった。今回の旅は鳥取、松江は大都市だから、その機会はここ大山しかない。あれこれ調べて見つけたのが、このオーベルジュ天空である。
ネットで調べると、客室はたった6、ツインの空き室は大山側(オーシャンビューの方が良いのだが)一つしか残っていなかった(ジュニアスウィート、この上がスウィート、最上級がインペリアル)。ディナーは創作イタリアンで選択肢はなし(レストランだけの利用者には各種ある)。天空教会と言うのが付帯設備としてある。どうやら結婚式専用のようだ。場所は大山寺本堂を少し南西方向に下ったところに在る。値段もまずまずだったので即予約した。
ビジターセンター駐車場を発ったのは5時、10分後には夕闇迫るホテル駐車場に着いていた。駐車場に出迎えてくれたのは正装した支配人風の人、玄関・ロビー・フロントはごく小規模で、チェックイン作業は部屋の案内まで彼ひとり。聞けば元々はペンションだったものを増改築したとのこと。どうりで客室が少ないわけだ。
東側のゆとりのある部屋から暮れなずむ大山が目の前に見える。そちら側に張り出した板張りのテラスに露天風呂(浴槽)があり、一応湯が張ってあるとのことだったが、小さいし外は寒いし温泉ではないので、利用する気にならない。家具やインテリアはアンティークの欧州調で好ましいが、ギョッとしたのは二つのベッドの違いである。一つは完全なダブルベッドで高さがやたら高い。よじ登る感じだ。もう一つはシングルの小ぶりなもの。通常の同サイズのベッドが並ぶツインとは大違いだ。あとで調べたところインペリアル以外は皆この方式らしい。ダブルとツインの違いは何なのだろう?このベッドのことだけは、最後まで分からなかった。
ひと風呂浴び、一休みして7時からディナー。1階フロントの脇からダイニングルームに入ると、南西方面に突き出したその広さにチョッと驚かされる。既に3,4組先客があり、彼らが窓側の席を占めているが、我々の席も眺望は充分効く。遥か下方に米子から境港に続く海岸線と町が明かりで浮かび上がっている。
料理の前菜は、明かりの先に在る隠岐の島のヒオウギ(緋扇)貝、名前のごとく赤い二枚貝、それにウズラのポアレ、エビの蒸し煮とつづく。どれも上品な味で赤ワインとよく合う。ここで代表取締役の中年女性が歓迎の意を表しに現れる。パスタは伊勢エビのトマトクリームスパゲッティ、これは絶品だった!そして地元ののど黒鉄板焼、量は少ないが前後を考えれば適量だ。面白いのは肉料理、何と北海道産のヒグマのもも肉ロースト、初めて食べたる珍味である。これに鳥取牛や子羊が一皿に乗って供される。ワインがすすむ。終わりころ比較的若い料理長が挨拶にきて、この料理の説明をしてくれた。味よし、気分良し。さすがレストランを売り物にするオーベルジュ(料理主体の旅籠)の看板に偽りは無かった。
食事が終わって、レストランのテラスに出てみた。ひんやりする空気が気持ちいい。遥か先には漆黒の中に光で形作られた地形がくっきりと刻まれ、夜空を仰げば満天の星々。近年こんな素晴らしい星空を眺めたことはない。さすが“天空”である。
昨日の皆美館といい今夜の天空といい、この地方の一流どころの料理は、世界的にも第一級と評せるのではなかろうか(事実天空は星の数は確認していないがミシュランに名前が載っている)。
写真は上から;ホテル全景、教会、メニュー
(写真はクリックすると拡大します)
次回;鍵掛峠を走って
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