2007年7月22日
17日(火)から20日(金)の予定でイギリス人唯一の友人(カリフォルニア大学バークレー校MBAの同級生;Geoff Loydon;ジェフ)を訪ねてブリストルとそこから近い、有名な田園地帯;コッツウォルズに出かけてきました。ジェフのこと、ブリストルのこと、コッツウォルズについては他日ご報告することにして、19日(木)から21(土)にかけて私が体験した、ウェールズ、イギリス西部にかけて大きな被害をもたらした水害について、その概要をご報告します。本日もこれがBBC全国版ニュースのトップです。
1)豪雨の中を迷走 初めの予定は17日から20日までブリストルに滞在し、19日一日レンタカーを借りて、コッツウォルズの南部を観光、20日はブリストルで列車の出発時間(15時半)まで適当に時間つぶしをする予定にしていました。しかし、ジェフから19日コッツウォルズに泊まり20日ユックリそこからブリストルに帰る案を勧められました。それに賛意を示すと直ぐさま、コッツウォルズ地帯のやや南東に位置するバフォードと言う町の、14世紀から続く小さな旅籠(The Rams Inn)を予約してくれました。
17日午後、18日一日は彼の車で、ブリストル市内やバース(温泉地)を案内してもらい、18日夕食時には、翌日からのドライブの道案内を息子共々してくれ、「明日も今日同様いい天気、しかし明後日は雨と予報で言っているから、明日出来るだけ外で観光する所を見て、明後日は邸宅や博物館など見るようしたらいい」と助言してくれました。こちらも実は20日は期するところがあり、この助言はぴったりでした。
19日は朝からいい天気です。北のランカスターから来ると暑さだけでなく湿気も感じる日本の夏の陽気です。ホテルに早朝来てくれたのは、市中にあるレンタカー会社のオフィスからラッシュの街中を抜け高速M5に出るための道案内をしてくれるためです。借りた車は今までよりもひと回り小さい、スモールクラスのフォード・フィエスタ(マツダ・デミオとシャーシは同じ、マニュアル車)、インターチェンジへのラウンドアバウトでUターンして帰る彼と別れて、強さを増す日差しの中をコッツウォルズへと向かいました。例によって、早めに高速とはおさらば、A, Bに入り、ブロードウェイ、チッピングカムデン、モートン・イン・マーシュ、バートン・オン・ザ・ウォータ、バイブリーなど日本人の好きな名所を一覧してバフォードへ。夕食までの時間街を一巡してロビーで休んでいると、にわか雨が激しく降り出し、老夫婦がずぶ濡れでチェックインしてきました。これがこれから始まる豪雨の序曲でした。
翌朝、ベッドも床も軋む部屋で目を覚まし、外を見るとしとしと雨が降っています。ある程度予測していたし、それほど強い降りでもありません。ブレナム宮殿(18世紀に建てられたマールボロー公爵の宮殿;チャーチル生誕の地;これを見るのがこの地方へ来たかった第一の理由;私にとっては聖地巡礼です)の公開時間は10時半から、バフォードからはA40→A4095で1時間もかからない距離です。少し早いとは思いつつ、9時過ぎ出発、走るにつれて雨脚が強まってきます。車とは行き交うが街中でも人の姿は殆ど見かけません。この辺りには牧草地は無く大きな木が道路に被さるよう茂っている。雨で暗い所へこれだからライトを点灯して走らなければ先がよく見えません。空はますます暗くなってきます。
宮殿を示す道標にそって進んでいくと、突然前が開け、幅広い門の遥か彼方に薄茶の巨大な宮殿の外壁と内門が見えてきます。その前は広々とした芝生が左右に広がっています。外門を入っていしばらく行った道路の真ん中に高速道路の料金所のようなものがあり、ここで入場料を払うと、芝生の中にある駐車場所を指示されます。ここから内門までの距離のあること!門に着いたら膝から下はびしょびしょの状態。2時間かけて内部を観て外へ出ると、雨は更に激しく降っています。ブリストルまでの帰路、他にも見所(是非訪れたかったのはチャーチルの墓所)はあるのですが先が心配です。ブリストルに直行しよう。昨日の走りから考えれば距離も短いから、余裕を見ても2時間あれば着くだろう。
昨晩、宮殿までと帰路のルートを三つに分けてそれぞれをA4用紙に纏めておきました。一つはバフォードから宮殿まで、他の二つは宮殿からブリストルまで。近道をするか、来る時知った道を出来るだけ多用するか?実はこれ以外に出来だけ高速を使う案も検討しておきましたが、日頃これは避けてきた案なので早い段階で没にしていたのです(これが後で悔やまれることになるのですが)。
結局宮殿を出る時選んだ案は、“知っている道”多用案にしました。宮殿を出てしばらく走り燃料計を見ると半分を少し欠けるところ、まだ100マイル位は十分走れます。順調に行けばブリストルまで問題ありません。満タン返しが原則ですから、中途半端に給油するより最後に一回だけ終わらせたい、と言う気持ちでいましたが、“雨の中で何かあったら!”との不安がよぎりスタンドに寄り、帰路の方向確認もしました。時々行き交うトラックが撥ねあげるしぶきで一瞬前が見えなくなります。しばらくA4095をバフォードに向かい戻っていると、普段と違い車が連なってきました。スピ-ドも落ちています。反対車線もノロノロとやってきます。“何だろう?来る時には何も無かったはずなのに” とにかく前車をフォローしてユックリ走っていると、街中の渋滞のように止まっては動きまた止まる、と言うような状態になってきました。直前は乗用車でしたが、その先はバスのような車が走っており先の様子が分かりません。道路の水嵩が少し多いな!バスが動いたのに前の小型車は直後を追随しません。そこで見えたのは、まるでウォーターシュートのように水を跳ね上げながら、少しでも浅そうな所を探して右往左往する車の群れです。団子になって動き回る車の中にいるうちに、どこかで道を間違えたらしい。どうも景色が違う。こうなったときの私の原則は“分かる所まで戻る”です。天気がよく方向感覚が確かな時はほぼこれで問題解決です。しかし、このやり方は激しい雨、暗いところでは時間がかかるし方向転換もままなりません。だんだん自分が何処にいるのかが分からなくなってきます。停めて確認したくても場所もありません。焦りもあって判断力が衰えてきます。作成した図面に417とあるのを419と間違えたり、間違えに気がついても“書き写した時に間違えたに違いない”と自分を納得させてしまったり、孤立すると怖いのでつい他力本願になる結果、ますます悪循環に落ち入ります。
3桁のA道路や4桁のB道路が楽しいのは天気がまずまずの時です。このクラスの道は道路の仕上げが悪く(特に路肩部分)、排水環境が最悪なのに気がついたのは悪戦苦闘し始めてからです。そこ彼処で動けなくなった車を見かけるようになります。床から水が浸入してくるんじゃないか?路肩を踏み外すんじゃないか?ああなったらどうしよう?喉はカラカラです。二つだけ希望を繋ぎ止めているのは満タン状態のガソリンと比較的近い距離にブリストルに至るM4とそこへ繋がるAの3桁道路が何本か走っていることです。やがてM4を示す標識が出てきました。そしてM4らしき道に入りました。M4と思って走っているとどうもブリストルとは逆行しているような名前が出てきます。心配になり、次のインターチェンジで降りてラウンドアバウトをUターンする方向に車を向けますが、M4と思しき道と併走するだけで、本道に乗れません。パーキングスペースがあったのでそこで地図を確認すると、M4と思っていたものは、高速仕様の一般道路でM4への導入道路だったのです。従ってブリストルと逆方向の町の名前も出てきていたのです。再びこの導入道路に戻ると、こんどはここも排水不良の箇所が出来ていて車線が絞られノロノロ状態です。こんな時はこちら側だけでなく反対車線も同じような状態です。この導入道路の難所を過ぎてM4に取り付いたのは3時少し前、宮殿を出てから2時間以上過ぎています。高速道路の速度規制は50マイル。完全に3時半発の列車に乗れないのは明らかです。しかし、5時半に北へ向かう列車があることを調べてあったので、これには十分間に合そうです。ブリストルへ近づくに従い雨も小降りになってきました。最後の難所は市内中心部ですが雨は止んでいます。しかもここは準備と読みがぴったり当たり、レンタカー事務所に難なく帰着できました。“地獄からの生還”でした。
2)列車全面運行停止 レンターカーオフィス近くのタクシー乗り場からブリストルの中央駅、テンプルミード駅に向かい、やれやれあとは列車に乗るだけ。長旅なので座席指定券を買うため、Today’s Ticketの行列に並び、やがて順番が来ました。「3時の指定に乗れなかったので、5時の指定券を下さい」と言うと、「Sorry! 今日の指定券はありません」「エッ!?もうフルブッキングですか?」、「いえ。今日は列車運行全面停止です。Floodingでどの線も運行していないのです。明日の指定券なら買えますが・・・」「・・・いえ結構」。
あの豪雨は、私が走った地域の局地的なものではなかったのです。ウェールズからロンドン近郊まで至る広い範囲で被害をもたらしていたのです。
出札口を離れ考えたのは、当然ですが、“これからどうするか?”です。先ず、考えられるのはジェフに連絡することです。電話をすれば「うちへ来て泊まれよ。部屋はいくらでもあるんだから(彼は男やもめ)」と返事が返ってくるのは間違えありません。しかし、この二日間彼には世話になりっぱなしです。好意に甘えず“先ず、自分で何とかしてみよう”。幸い、ブリストル滞在中彼に用意してもらったホテルの電話番号がわかっていたので当たってみると“部屋はある”という返事。ホテルの所在地が市中を離れ彼の家との中間点、クリフトンと言う住宅地が始まる地域にあったのが幸いしたのでしょう。とにかくタクシーで駆けつけました。豪雨の中の運転、駅での予期せぬ出来事。重い食事をする意欲はありません。前の滞在中ジェフと近くのパブに出かけた時、コンビニがあるのを思い出し、サンドウィッチと壜ビール(ビター;英国では先ず缶の一本売りはない)とポテトチップを買い、これとホテルが用意してくれた果物で夕食にすることにしました。
風呂を浴びて、やっとこの難儀な一日のストレスを洗い流し、TVのスウィッチを入れると、何と走って来た一帯(M4やその沿線、特に私がM4にのったスウィンドン)やテンプルミード駅からのライブ映像が出てきています。次いで動けなくなった車や、冠水した線路が映し出されました。BBCは洪水情報の特集を流しているのです。各所で道路が寸断されていること、鉄道も全面的に止まっていること、空港も混乱していること、軍が救助活動に動き出していることなどを報じています。昨日今日と走り回った小さな村々の雨量などが出てきます。殆ど100ミリを超えています。よく聞いていると“Five inches(約125cm)を超えた”などと言っています。大変な所を大変な時間帯、迷走したしていたわけです。あらためて無事帰り着いた幸運を実感した次第です。
9時頃ジェフに電話しました。この時間なら彼が私のために動き回ることはないだろうと思ったのと、少なくとも無事であることを伝えるためです。「無事でよかった!ランカスターへ帰り着いたら必ずメールしてくれ。Good night」夜が深まると“大都市のホテルはどこもフルブッキング(満室)”とも報じています。交通評論家のような人が何度も登場し、明日も道路・鉄道・空路(空港)の混乱は続くので、不要の旅行を控えるよう警告しています。夏休みの週末、明日はどうなるか?ブリストルからランカスターへの直行列車は7時26分が初発、次が9時26分。明日の朝の計画をどうするか?現状から考えると順調に運行される可能性は低い。初発は見送り、朝食を確り食べて駅に向かうことにして就寝しました。
3)Long Way
翌日は土曜日、6時前に起床。空は明るく一部青空が見える。TVを入れると、交通機関の状況は昨晩とあまり変わりありません(ライブで酷い状況がさらに確認できるだけ)。鉄道はエンジニアリングワークがあり殆どダイヤ通り運行されていない、道路は自動車置き場に変じている、と報じています。土曜日なので朝食時間は8時から、フロントに8時45分タクシーが来るよう頼み、イングリッシュブレックファースト(卵やベーコン、ハムなどが供せられる)で確り腹ごしらえをしてチェックアウトしました。チェックアウトの際、「今日も交通機関は正常に動いていないようだから、今晩も泊まることになるかもしれない。電話をするからその時はよろしくね!」と頼むと、「今晩はフルブッキングです。キャンセル待ちになります」との返事。退路を絶たれて駅へ向かう。
駅に着き到着・出発表示板を見ると、案の定直行便は出ていない。出ているのは近距離列車のみ。駅員が数人旅客対応に当たっている。乗車券を見せながら「ランカスターに行きたいんだが・・・」と言うと、「今日はLong Wayになりますね」との答え。「先ず、ここからロンドン・パディングトン駅へ出てください。そこから地下鉄でキングズクロス駅に行き、キングズクロス駅からGNERと言う鉄道会社の便で北へ向かってください。北へはこの便しかありません」「GNERにランカスター行きがあるんですか?(あるはずが無いと確信した上で)、ユーストン駅へ出てヴァージンで帰れませんか?」、「北行きは全てGNERです!」(次の客の対応に移る)。
ロンドンに出ることが解決策に繋がるのは、6月のロンドン行きの経験から納得できる。取り敢えずここを脱してロンドンに向かおう。時間は9時、丁度9時半発の列車がホームに入っている。プライオリティシート(ハンディキャップ、老人用)だが席が取れる。隣のおじさんに「(時々車両が切り離され別の方向に行く列車があるので)この車両はパディングトンへ行きますか?」と聞くと、「(にやっとしながら)I hope so」と返事が返る。遠距離はパディングトン行きが唯一の選択肢、どんどん乗り込んでくる。お盆のラッシュアワーが再現される。時間間際に来た人は乗れない。無理に乗ろうとする人を駅員が制止する。怒号が飛び交う。日本のトラブル時と変わらない。列車は4分遅れで動き出す。乗車口の方から無理をしながら高齢のおばあさんとその保護者と思しき人が中に落ち着こうと進んでくる。若い男がスーッと席を譲る、隣の若い男も保護者のおばさんに席を譲る。思わず涙が出そうになった光景です。隣のおじさんに「英国の若者は親切ですね!」と話しかけると、「若者の悪さがいろいろ言われるが、彼らは親切だね。ところで英国は好きかね?」「大好きです。天気を除いてね!」「その通りだ!」。
到着駅のパディングトンは初めての駅です。大きな駅だけに混乱も大規模。何処で何をしたらいいか?一番確認したいことはユーストン駅からヴァージンの北行きが運行されているかどうかです。案内に当たる駅員とやっと話が出来る順番が来たのでそれを問うと、「手元の乗車券は地下鉄で何処へでもいけます。ユーストン駅で聞いてください」、これで私への対応は終わりです。幸い前回のロンドン訪問で地下鉄は慣れている。高い料金も今回は関係なし!ここで一発勝負することにしました。地下鉄でキングズクロスへ出る方が簡単で早いのですが、ブリストル駅でのアドバイスを後回しにし、ユーストン駅に行きヴァージンの北行きを確かめ、ダメならキングズクロスにすることにしました。ロンドンの地下鉄銀座駅とも言えるオックスフォード・サーカスで乗り換えユーストン駅に着くと、ここも大混雑です。しかし、何処に何があるかわかっているので直ぐに巨大な到着・出発案内板のあるホールに向かいました。ロンドン訪問時と違いホールは人でいっぱい。みなそれを見上げています。何とか前のほうに出て案内板を左から(一番左が直近発着)見てゆく。北行き、知った駅名はないか?あった!行き先Carlisle(カーライルと発音する;イングランド北辺の町の名)が!Calling at(停車駅名)にはLancasterが!何時発だ?12:35。今何時だ?12:30。間もなく出発だ!プラットフォームは?“Preparing(準備中)”!!!??? やはりダメか?! するとここに“7”が表示される。ホールに一瞬どよめき。群集が動き出だす。私も7番を目指す。湖水地帯に向かうバックパッカーの若者たちが走る。僕も負けずに走る!皆知っているんだ!ホールに近い方はファーストクラス、自由席は先の車両だと。いつの間にかトップを走っている。誰かが笑っている。よほど滑稽なのだろう、小さな東アジア人の老人が必死で走っている姿が。
列車は定刻通りに発車しました。4人掛けのシートの一隅に席を決める際、前にいる若者(“Trust me! I am a doctor”と描いたTシャツを着ていた)にここがノンリザーブかどうかを確認した(通常はリザーブ席には何らかの表示があるが今日はそれが見当たらない。しかし乗客の動きを見ているとどうもリザーブしている人がいるようなので)。「ノンリザーブだと思うよ(実はラグビーから3人連れの家族が乗ってくるのだが、その頃には空席も出ているので問題なし)」。売店で求めた缶ビール(500mlのラガーがあった)とサンドウィッチで、1日半かけた“Long Way”のエンドランを仕上げました。
このレポートを自宅TVの前で書いています。BBCは今日も朝から“洪水”特集です。ブラウン首相全面的支援を約しています。軍隊が動員され救助活動が行われています。依然として水の引かない道路には自動車があちこちを向いて水没しています。ここ数年英国は年々異常気象現象が酷くなってきているとも。
異国で体験した異常事態をセミライブでお届けします。
以上
2008年11月1日土曜日
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