1)本当は恐ろしいアメリカの真実(エリコ・ロウ);講談社
2)ローマ人の物語-最後の努力-〔上、中、下〕(塩野七生);新潮社(文庫)
3)オバマ大統領は黒人か(高山正之);新潮社
4)中流社会を捨てた国(ポーリー・トインビー、デイヴィッド・ウォーカー);東洋経済新報社
<愚評昧説>
1.本当は恐ろしいアメリカの真実 先にご紹介した日高義樹の「不幸を選択したアメリカ」が共和党シンパの日本人の書いたものに対して、これは民主党シンパの日本人女性ジャーナリストが書いた、同じオバマ政権下のアメリカの現状と将来である。「ブッシュは酷かった」「共和党は問題だらけだ」それに引き換え「オバマには期待できる」と言う主張を、アメリカでの教育と生活(結婚相手はアメリカ人)、現在の居住地カナダ、そして日本人と言う三つの視点から行うユニークな評論である。“本当は恐ろしい”は共和党政権下のアメリカであり、“変わる変わる”と唱えながら根底はなかなか変わらないアメリカだと、筆者が自ら体験したこと、見聞したことから説き起こし、しかしオバマはやってくれるのではないかと結んでいる。
オバマは選挙中そして大統領当選後も演説の中でしばしば“United States of America”を強調し、それが大衆に大受けしてきたのだという。裏返せばアメリカは“United(結合)”されていないと言うのが筆者の見解である。それ故に種々の問題が噴出し“恐ろしいアメリカ”になってしまったのだと。その身近な事例を、人種差別、女性差別、宗教上の対立、経済格差、政官癒着(規制や情報開示など)、イラク・アフガン問題、ジャーナリズムの変化などの面から取り上げ、特に9・11同時多発テロ以降のアメリカ社会変容に対する危機感を浮き彫りにしてみせる。
2000年の大統領選挙の投票日私はマンハッタンに居た。その前日民主党贔屓のユダヤ系アメリカ人夫妻と夕食を共にした。「どちらが勝つと思うか?君はどちらを支持するんだ?」と単刀直入に聞かれた。曖昧な受け答えに共和党シンパと読まれ(実際そうなのだが)「愚かなブッシュが大統領になったら世界は大変なことになるぜ」と決め付けた。昨年連休この夫婦が我が家を訪れた。大統領選挙の年、話題はあの時を再現することになる。「前回の事を憶えているかい?世界は酷いことになったろう!」と。
身近な事例から現代社会・政治の問題点を突きつけられると簡単に反論は出来ない。結果を総括して述べられればその通りである。9・11以降二度渡米し、セキュリティ・チェックでたびたび人種差別と思われる不快な思いにさせられ、“アメリカに行く気がしない”心境にある。
しかし、これがオバマ・民主党で変わるとはとても思えない。また、日米関係の歴史を見れば民主党政権下の方が緊張の高まる傾向にある。筆者は草の根民主主義(特にネットを利用した)が“それでも希望の国、アメリカ”を実現すると期待するのだが…。
2)ローマ人の物語-最後の努力-〔上、中、下〕 愛読している塩野七生の長編である。単行本にすると全15巻の13巻目に当たる。いよいよローマ帝国の滅亡も間近になってきた。ここで主に取り上げられるのはディオクレティアヌス(AD284~305)とコンスタンティヌス(AD306~337)の二人の皇帝であるが、この間に統治形態が二頭政・四頭政を経るので二人以外の皇帝・副帝が登場する。
ディオクレティアヌスが多頭政を敷くのは帝国の広がりに起因するが、それと同時に延びた防衛線の外側からの侵攻が激しくなってきたことも要因である。やがてはローマ帝国を滅ぼす“ゲルマン民族大移動”の兆候とも言える。
この多頭政は単に担当地域の変化のみならず、政治や軍の組織・機能を変えていく。従来の皇帝は独裁権力者ではなく、市民そして元老院によって統治権を委託されていたものが、この時代になると元老院の存在や市民の関与はほとんど無力になっていく。軍も防衛線に張り付く形態から、皇帝直轄の機動性を高めた軍が主流になっていく。言わば絶対王権への道を進むようになってくるのである。
もう一つの社会変革の要素はキリスト教の扱いである。帝国の東方で発したキリスト教は時どきの皇帝によって迫害されたりしてはいたが着実にその信者を増やしてきており、それは特に帝国の東方(小アジアやパレスチナ)で顕著だった。ディオクレティアヌスはその布教を禁じ、厳しい政令を発しているが、実態はそれほどでもなかったようで、殉教者の数は多くない。
この公式見解が一転するのは多頭政を清算したコンスタンティヌスの時代である。彼はキリスト教をローマの伝統的な多神教の神々と差別しないことを宣言し、次いでこれの普及に力を貸すことになる(教会の財産保持を認める)。彼は最後までキリスト教を国教としたわけではないが、これらの為政によって、後年キリスト教会・教徒からは特別な人物として崇められるようになる。
独裁的な権力獲得の後首都をローマからコンスタンティノープル(今のイスタンブール)に移し、ここに帝国を代表する教会を建立する。これらによってローマは衰退していく。
コンスタンティヌスは何を考えていたのだろう?絶対王政の確立、王権の世襲を考えるなら、その権利・権威・資格を“神から与えられた”とすることが説得力がある。それには“人を助ける”ローマの神々“より“人を導く”キリスト教が体制にとって相応しい。やがて中世へつながる権力者とキリスト教の関係がこうして始まった。と言うのが塩野ローマ史観と言えるようだ。
(写真は昨年ローマを訪れた際撮影したコンスタンティヌス凱旋門;オリジナルのハドリアヌス帝凱旋門を4代の皇帝の凱旋門として利用している;場所を変えて4代の戦勝の様子が浮き彫りされている)
3)オバマ大統領は黒人か 面白そうな新聞広告が出たので書店に行ったが見当たらなかった。仕方なくAmazonに発注したら発送は3週間くらい後だと言う。つまりよく売れていて2刷目が刷り上るまで待たされた。筆者は元産経記者、テヘランやロサンゼルスの支局長も務めており国際経験も豊かな人のようだ。退社後週刊新潮に書いているコラム「変見自在」をまとめたものが本書で、私は今まで知らなかったが既にこのコラムの単行本がかなり出ていることから多くの固定ファンがいるのだろう。帯に“「偽善と欺瞞」を一刀両断!”とあるが当にその通り、アメリカ、フランス、中国、韓国(朝鮮)、オーストラリアそして何と言っても“朝日新聞”を切って切って切りまくる痛快なコラムである。よく売れているのに合点がいった。
発行部数比較はともかく、全国紙で朝日が左の極ならば産経は右の代表格と言っていいだろう。毎日はもっと左かもしれないし、部数で勝負の芸能スポーツ新聞;読売ですらやや左の論調に見える。左寄りの方が売れるのだろう。自民党があまりに長く政権を握ってきたことの反作用なのだろうか?
日本人は「大新聞の言っていることは正しい」と考える傾向にあるようだが、日本のジャーナリズムが総じて政権・体制に極めて批判的なのは、外国人でも日本の事情に通じている人にはわかっている。嘗てバンクーバーから東京に飛ぶフライトの中で台湾系カナダ人に「日本の新聞みたいに政権の悪口ばかり言う新聞は、他の国にはありませんよ」と言われたことがある。確かにジャーナリズムには“社会の番犬”と言う役割はあるが、国民と政府を力づける役割も同じように重要なはずである。その点で“朝日新聞とは何様だ!?”と言う思いを抱いている人は多い。
政府に対する不信、周辺諸外国に対する卑屈な外交姿勢は長年にわたる左翼知識人・左翼ジャーナリズムによって洗脳された国民の己が姿と言っていい。その代表格、朝日離れが私の周辺でも起こっている。良いことである。
筆者・産経の主張に全面的に賛成するわけではないが、この様な主張が多くの人に受け入れられている(売れている)のは、我々もやっと大新聞の呪縛から逃れて考えるようになった証であろう。(週刊誌は買わないが)週刊誌ジャーナリズム頑張れ!
4)中流社会を捨てた国(原題;Unjust Rewards;不正な報酬) 久し振りに読み応えのある本に行き当たった。ここで取り上げられるのは英国。筆者の一人、ポーリー・トインビーは歴史家として有名なアーノルド・J・トインビーの姪、社会問題を専門領域とするジャーナリストである。
2007年滞英中に友人が日英社会・経済比較を特集した週間東洋経済を送ってくれた。英国はサッチャー政権から持続する好景気の中に在ったし、日本経済も小泉改革でやっと長期不況から脱しつつあるように見えた。特集では英国の問題点も多々あるものの、日本経済は失われた10年を取り戻すまでには至っていないことを物語っていた。その特集の中に囲み記事があり、そこで豊かになったように見える英国社会に実は格差が広がっている事を、身分を隠して下流社会に身を投じたポーリーが解説している件があった。指導を受けていたカービー教授にこの特集の話とポーリーの記事について掻い摘んで話すと、「私の政治信条は彼女に近い」との返事が返ってきた。中道左派というところであろうか?
原題には使われていないがタイトルと文中に頻繁に現れる中流階級、中産階級は本来“ミドルクラス”、英国では単に収入・財産だけではなく、無形の安定的(あるいは伝統的)な生活様式をも含む言葉である。このクラスの繁栄こそ英国社会の落着いた豊かさの根源と言う考えがこの語の中にある。そのミドルクラスが確実に崩壊している。どんなことが起きているか?その因はどこから来ているか?それを正すにはどうすれば良いか?これが本書の骨組みである。
まず取り上げられるのが、金融機関トップの法外な報酬である(これが原題の“Unjust Rewards”になっている)。しかも彼等があらゆる手段を使って脱税を行っている事を浮き彫りにしていく。これと併行して、サッチャー、ブレア(労働党であるにもかかわらず)が富裕税を大幅に下げたことによって、英国がヨーロッパの税金天国になり、英国籍でない者が社会保障面では税金の恩恵を蒙りながらほとんど税金を払っておらず、結果としてそれが中流階級に重くのしかかっていることを明らかにする。
金融サービスの盛況は効率の悪い(資金回収に時間のかかる)製造業を衰退させ、多くの中流階級を下層に追いやる結果をもたらしている。オックスブリッジへの登竜門、パブリックスクールへの進学者は金融成金や外国籍の金持ち階級に置き換わり、学問への志しさえ金儲け主義に堕して、ノブレス・オブリージュ(高い地位にあるものはそれだけの責任を果たす)の精神は失われ、真の社会指導者に相応しい人材が育たなくなってきている。
どう対応するか?まず子供がその階級に縛られる環境を平等なものにしよう!そのために社会保障制度を充実しよう!親の失業、シングルマザー問題、住環境はそれと無縁ではない!この面でも社会保障制度を見直そう!そのためには富裕税と相続税を累進的に上げ、脱税を徹底的に封じよう!慈善寄付は景気に左右される!しっかり税金で財源を確保するのだ!北欧社会が落着いている背景には高い税金がある!出ていきたい者は出て行け!家族ともどもロンドンの住み心地を享受できる場所は在りはしないのだから!これを最終章で18の提言としてまとめている。
原著は2008年金融危機前に初版が出たが、直ぐ金融危機を受けて増補版が出版されている(本書はこの増補版)。“それ見たことか!”と。
もう一人の筆者、デイヴィッド・ウォーカーは社会調査の専門家らしく、分析・主張の裏づけも確りしている。翻訳も良くこなれている。
対応策;大きな政府、特に増税策は議論を呼ぶところだろうが、全国会議員に配りたい本である。
2)ローマ人の物語-最後の努力-〔上、中、下〕(塩野七生);新潮社(文庫)
3)オバマ大統領は黒人か(高山正之);新潮社
4)中流社会を捨てた国(ポーリー・トインビー、デイヴィッド・ウォーカー);東洋経済新報社
<愚評昧説>
1.本当は恐ろしいアメリカの真実 先にご紹介した日高義樹の「不幸を選択したアメリカ」が共和党シンパの日本人の書いたものに対して、これは民主党シンパの日本人女性ジャーナリストが書いた、同じオバマ政権下のアメリカの現状と将来である。「ブッシュは酷かった」「共和党は問題だらけだ」それに引き換え「オバマには期待できる」と言う主張を、アメリカでの教育と生活(結婚相手はアメリカ人)、現在の居住地カナダ、そして日本人と言う三つの視点から行うユニークな評論である。“本当は恐ろしい”は共和党政権下のアメリカであり、“変わる変わる”と唱えながら根底はなかなか変わらないアメリカだと、筆者が自ら体験したこと、見聞したことから説き起こし、しかしオバマはやってくれるのではないかと結んでいる。
オバマは選挙中そして大統領当選後も演説の中でしばしば“United States of America”を強調し、それが大衆に大受けしてきたのだという。裏返せばアメリカは“United(結合)”されていないと言うのが筆者の見解である。それ故に種々の問題が噴出し“恐ろしいアメリカ”になってしまったのだと。その身近な事例を、人種差別、女性差別、宗教上の対立、経済格差、政官癒着(規制や情報開示など)、イラク・アフガン問題、ジャーナリズムの変化などの面から取り上げ、特に9・11同時多発テロ以降のアメリカ社会変容に対する危機感を浮き彫りにしてみせる。
2000年の大統領選挙の投票日私はマンハッタンに居た。その前日民主党贔屓のユダヤ系アメリカ人夫妻と夕食を共にした。「どちらが勝つと思うか?君はどちらを支持するんだ?」と単刀直入に聞かれた。曖昧な受け答えに共和党シンパと読まれ(実際そうなのだが)「愚かなブッシュが大統領になったら世界は大変なことになるぜ」と決め付けた。昨年連休この夫婦が我が家を訪れた。大統領選挙の年、話題はあの時を再現することになる。「前回の事を憶えているかい?世界は酷いことになったろう!」と。
身近な事例から現代社会・政治の問題点を突きつけられると簡単に反論は出来ない。結果を総括して述べられればその通りである。9・11以降二度渡米し、セキュリティ・チェックでたびたび人種差別と思われる不快な思いにさせられ、“アメリカに行く気がしない”心境にある。
しかし、これがオバマ・民主党で変わるとはとても思えない。また、日米関係の歴史を見れば民主党政権下の方が緊張の高まる傾向にある。筆者は草の根民主主義(特にネットを利用した)が“それでも希望の国、アメリカ”を実現すると期待するのだが…。
2)ローマ人の物語-最後の努力-〔上、中、下〕 愛読している塩野七生の長編である。単行本にすると全15巻の13巻目に当たる。いよいよローマ帝国の滅亡も間近になってきた。ここで主に取り上げられるのはディオクレティアヌス(AD284~305)とコンスタンティヌス(AD306~337)の二人の皇帝であるが、この間に統治形態が二頭政・四頭政を経るので二人以外の皇帝・副帝が登場する。
ディオクレティアヌスが多頭政を敷くのは帝国の広がりに起因するが、それと同時に延びた防衛線の外側からの侵攻が激しくなってきたことも要因である。やがてはローマ帝国を滅ぼす“ゲルマン民族大移動”の兆候とも言える。
この多頭政は単に担当地域の変化のみならず、政治や軍の組織・機能を変えていく。従来の皇帝は独裁権力者ではなく、市民そして元老院によって統治権を委託されていたものが、この時代になると元老院の存在や市民の関与はほとんど無力になっていく。軍も防衛線に張り付く形態から、皇帝直轄の機動性を高めた軍が主流になっていく。言わば絶対王権への道を進むようになってくるのである。
もう一つの社会変革の要素はキリスト教の扱いである。帝国の東方で発したキリスト教は時どきの皇帝によって迫害されたりしてはいたが着実にその信者を増やしてきており、それは特に帝国の東方(小アジアやパレスチナ)で顕著だった。ディオクレティアヌスはその布教を禁じ、厳しい政令を発しているが、実態はそれほどでもなかったようで、殉教者の数は多くない。
この公式見解が一転するのは多頭政を清算したコンスタンティヌスの時代である。彼はキリスト教をローマの伝統的な多神教の神々と差別しないことを宣言し、次いでこれの普及に力を貸すことになる(教会の財産保持を認める)。彼は最後までキリスト教を国教としたわけではないが、これらの為政によって、後年キリスト教会・教徒からは特別な人物として崇められるようになる。
独裁的な権力獲得の後首都をローマからコンスタンティノープル(今のイスタンブール)に移し、ここに帝国を代表する教会を建立する。これらによってローマは衰退していく。
コンスタンティヌスは何を考えていたのだろう?絶対王政の確立、王権の世襲を考えるなら、その権利・権威・資格を“神から与えられた”とすることが説得力がある。それには“人を助ける”ローマの神々“より“人を導く”キリスト教が体制にとって相応しい。やがて中世へつながる権力者とキリスト教の関係がこうして始まった。と言うのが塩野ローマ史観と言えるようだ。
(写真は昨年ローマを訪れた際撮影したコンスタンティヌス凱旋門;オリジナルのハドリアヌス帝凱旋門を4代の皇帝の凱旋門として利用している;場所を変えて4代の戦勝の様子が浮き彫りされている)
3)オバマ大統領は黒人か 面白そうな新聞広告が出たので書店に行ったが見当たらなかった。仕方なくAmazonに発注したら発送は3週間くらい後だと言う。つまりよく売れていて2刷目が刷り上るまで待たされた。筆者は元産経記者、テヘランやロサンゼルスの支局長も務めており国際経験も豊かな人のようだ。退社後週刊新潮に書いているコラム「変見自在」をまとめたものが本書で、私は今まで知らなかったが既にこのコラムの単行本がかなり出ていることから多くの固定ファンがいるのだろう。帯に“「偽善と欺瞞」を一刀両断!”とあるが当にその通り、アメリカ、フランス、中国、韓国(朝鮮)、オーストラリアそして何と言っても“朝日新聞”を切って切って切りまくる痛快なコラムである。よく売れているのに合点がいった。
発行部数比較はともかく、全国紙で朝日が左の極ならば産経は右の代表格と言っていいだろう。毎日はもっと左かもしれないし、部数で勝負の芸能スポーツ新聞;読売ですらやや左の論調に見える。左寄りの方が売れるのだろう。自民党があまりに長く政権を握ってきたことの反作用なのだろうか?
日本人は「大新聞の言っていることは正しい」と考える傾向にあるようだが、日本のジャーナリズムが総じて政権・体制に極めて批判的なのは、外国人でも日本の事情に通じている人にはわかっている。嘗てバンクーバーから東京に飛ぶフライトの中で台湾系カナダ人に「日本の新聞みたいに政権の悪口ばかり言う新聞は、他の国にはありませんよ」と言われたことがある。確かにジャーナリズムには“社会の番犬”と言う役割はあるが、国民と政府を力づける役割も同じように重要なはずである。その点で“朝日新聞とは何様だ!?”と言う思いを抱いている人は多い。
政府に対する不信、周辺諸外国に対する卑屈な外交姿勢は長年にわたる左翼知識人・左翼ジャーナリズムによって洗脳された国民の己が姿と言っていい。その代表格、朝日離れが私の周辺でも起こっている。良いことである。
筆者・産経の主張に全面的に賛成するわけではないが、この様な主張が多くの人に受け入れられている(売れている)のは、我々もやっと大新聞の呪縛から逃れて考えるようになった証であろう。(週刊誌は買わないが)週刊誌ジャーナリズム頑張れ!
4)中流社会を捨てた国(原題;Unjust Rewards;不正な報酬) 久し振りに読み応えのある本に行き当たった。ここで取り上げられるのは英国。筆者の一人、ポーリー・トインビーは歴史家として有名なアーノルド・J・トインビーの姪、社会問題を専門領域とするジャーナリストである。
2007年滞英中に友人が日英社会・経済比較を特集した週間東洋経済を送ってくれた。英国はサッチャー政権から持続する好景気の中に在ったし、日本経済も小泉改革でやっと長期不況から脱しつつあるように見えた。特集では英国の問題点も多々あるものの、日本経済は失われた10年を取り戻すまでには至っていないことを物語っていた。その特集の中に囲み記事があり、そこで豊かになったように見える英国社会に実は格差が広がっている事を、身分を隠して下流社会に身を投じたポーリーが解説している件があった。指導を受けていたカービー教授にこの特集の話とポーリーの記事について掻い摘んで話すと、「私の政治信条は彼女に近い」との返事が返ってきた。中道左派というところであろうか?
原題には使われていないがタイトルと文中に頻繁に現れる中流階級、中産階級は本来“ミドルクラス”、英国では単に収入・財産だけではなく、無形の安定的(あるいは伝統的)な生活様式をも含む言葉である。このクラスの繁栄こそ英国社会の落着いた豊かさの根源と言う考えがこの語の中にある。そのミドルクラスが確実に崩壊している。どんなことが起きているか?その因はどこから来ているか?それを正すにはどうすれば良いか?これが本書の骨組みである。
まず取り上げられるのが、金融機関トップの法外な報酬である(これが原題の“Unjust Rewards”になっている)。しかも彼等があらゆる手段を使って脱税を行っている事を浮き彫りにしていく。これと併行して、サッチャー、ブレア(労働党であるにもかかわらず)が富裕税を大幅に下げたことによって、英国がヨーロッパの税金天国になり、英国籍でない者が社会保障面では税金の恩恵を蒙りながらほとんど税金を払っておらず、結果としてそれが中流階級に重くのしかかっていることを明らかにする。
金融サービスの盛況は効率の悪い(資金回収に時間のかかる)製造業を衰退させ、多くの中流階級を下層に追いやる結果をもたらしている。オックスブリッジへの登竜門、パブリックスクールへの進学者は金融成金や外国籍の金持ち階級に置き換わり、学問への志しさえ金儲け主義に堕して、ノブレス・オブリージュ(高い地位にあるものはそれだけの責任を果たす)の精神は失われ、真の社会指導者に相応しい人材が育たなくなってきている。
どう対応するか?まず子供がその階級に縛られる環境を平等なものにしよう!そのために社会保障制度を充実しよう!親の失業、シングルマザー問題、住環境はそれと無縁ではない!この面でも社会保障制度を見直そう!そのためには富裕税と相続税を累進的に上げ、脱税を徹底的に封じよう!慈善寄付は景気に左右される!しっかり税金で財源を確保するのだ!北欧社会が落着いている背景には高い税金がある!出ていきたい者は出て行け!家族ともどもロンドンの住み心地を享受できる場所は在りはしないのだから!これを最終章で18の提言としてまとめている。
原著は2008年金融危機前に初版が出たが、直ぐ金融危機を受けて増補版が出版されている(本書はこの増補版)。“それ見たことか!”と。
もう一人の筆者、デイヴィッド・ウォーカーは社会調査の専門家らしく、分析・主張の裏づけも確りしている。翻訳も良くこなれている。
対応策;大きな政府、特に増税策は議論を呼ぶところだろうが、全国会議員に配りたい本である。
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