2010年2月27日土曜日

決断科学ノート-32(迷走する工場管理システム-6;先行する和歌山工場の苦悩-2)

 洗剤やトイレットペーパー騒動のように、73年の第一次石油ショックはあらゆるものの価格に影響を与えたが、それを原料、エネルギー源とする石油精製や石油化学は特にそのインパクトは大きかった。原油価格が3倍になったからと言って、売値を3倍に出来るわけではない。製造原価に占めるエネルギー消費の抑制(省エネルギー)が急務となった。
 この点では計測・制御・情報分野の仕事にとって、この激変はある種追い風とも言えたのである。従来工場で自家消費するエネルギー源は、生産工程で発生する排ガスや低品位の残渣油、原価はタダ同然であった。排ガス・廃熱回収への投資はなかなかペイしなかったし、売れない重質油を倹約しても経済効果は知れていた。それが3倍のリターンをもたらすようになったのである。それも、コンピューターや計測制御機器が備わっているところでは、応用ソフトの開発費(社内のSEが行う)を除けばほとんど追加投資無しで、直ちに着手・実現できた。これはプラントの制御ばかりでなく、原価管理用のデータをきめ細かく分析し、運転方法の調整・管理に役立てるような仕事にも及んだ。経営陣がやっとコンピューターや計測・制御の有用性に開眼する絶好の機会を提供してくれるようになってきた。
 生産管理(月次計画、スケジューリング)システム開発で苦悩する和歌山工場でも、省エネ活動へこの工場管理システムを活用することに期待が集まった。しかし、話はそう簡単に進まない。
 和歌山工場の歴史は戦前に遡る。戦後の再開時に計測制御機器は更新されてはいるものの、その装備は必要最小限に留まり、かつかなりの計器は現場に設置され、計器室まで信号がつながっていないものが多い。また古いプラントの計器は空気式がほとんどで電気信号にするには変換器を必要とする。運転員が2時間毎の現場点検で情報を集め、それをログシートに記入、一日のデータとして翌朝管理部門に報告される。それをカードパンチしてコンピューターに入力する。その間には誤りも生じるし時間もかかる。つまり運転情報の数・質両面で劣り、きめ細かい管理データーとして利用するには制約だらけなのである。この環境を改善するには新たな設備投資が必要となる。そのためには更なる経済性検討を行わなくてはならない。とても急場の役には立たない。
 もともと本社を含む生産管理部門は、計画立案・スケジューリングは自分たちの本来の仕事と思っているし、現行の業務処理方式がベストと信じている。工場管理システムに対する期待は、“信頼のおける実績データをタイムリーに”提供してくれることにあった。ただこの部分(データ収集分析体系の改善)だけで工場管理システム導入の経済性を出すことが難しかったので、計画管理から実績処理までを一体としたプロジェクトにした経緯があった。しかし、このシナリオが計画管理系開発のもたつきと石油ショックで崩れてしまったのである。
 実績処理体系作りを急がせる経営陣・管理部門の声は、この和歌山工場の状況を変えるべく今度は別の問題を惹起する。有田工場運転要員のシステム部門への転用である。
 数年前から第二工場とも言える有田工場の運転要員として大量の高卒者が採用され、既存プラントで教育訓練を受けていた。それをシステム要員として活用せよと言うのである。
 本人の希望・資質などを考慮して人選が進められたものの、その戦力化への道は容易ではなかった。和歌山計画は当初計画とはまるで合致しない足取りになっていく。
 これはいろいろな形で川崎工場管理システム計画に波及してくる。
(次回;凍結された川崎計画)

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