2011年3月29日火曜日

決断科学ノート-68(大転換点TCSプロジェクト-5;グループ内状況-2)

 DDCには従来のアナログ制御機器より優れた点が多々あるのだが、プラントをコンピュータ制御するメリットは主にSPCの部分が担っている。DDCの部分は信頼性やスピード重視のため複雑なロジックを組むには制約の多い構造になっているからなのだ。
 SPCに使われるコンピュータは、DDCに比べ遥かに処理能力が大きいので複雑で高度な情報処理や制御が出来る。代表的な例は、プロセスの広範で精密なモデルを構築し、これで経済的に最適な運転条件を探索したり維持したり出来る、最適化制御があげられる。グループで先頭を切った石油化学のSPCは、エチレン生産の最大化を実現するためのプロセス上の隘路を特定することで、新設エチレン製造装置稼動までの需要増に応えてきた。また和歌山工場FCC装置(重質油を原料にし、これを触媒で分解してガソリン溜分を得る)では、分解によって得られるガソリン溜分とそのための熱エネルギー投入量を最も経済的に良いところに持っていくための運転条件を求めるところにSPCの適用が図られた。
 このような化学工学的なモデルやそのための最適化手法をコンピュータ上で走らせるためには、それを数理的な表現で記述するためのプログラミングが必要になる(第一世代の時代は主にフォートラン言語)。ところが、これに当たるエンジニアはプロセス・システム・エンジニア(PSE)と呼ばれる、本質的には化学工学の専門家であって、数理(特にプログラミング)の専門家ではない。ここにSPCアプリケーションの生産性にどうしても限界が出来てしまうのである。もしこのプログラミング作業がPSEにとって容易なものであるならば、開発のスピードを早めることが出来るし、人数も増やすことも出来る。
 1964年に始まった石油精製の川崎工場拡張計画に際して、IBM-1800が採用された決め手は、このアプリケーション・プログラム開発のための簡易言語(PROSPROと呼ばれる)が在ったことである。これは従来のフォートランと違い基本的なアプリケーションは空欄穴埋め方式(□の中に数字や記号を入れる)で開発でき、特別仕様の部分のみフォートランでサブルーチンを書けばいいので、普通の(システムエンジニアリングを学んでこなかった)プロセスエンジニアでもチョッと教育を受ければ利用することが出来た。
 第一次石油危機に際して、原油価格が高騰したことから、効率改善の種は随所にあったが、PROSPROを採用していた川崎工場では、そのお陰で即座に省エネルギー活動を活発化でき、コンピュータ利用が高い評価を得ていた。従って、プロセスエンジニアを中心にこのようなツールを望む声は日ましに高まり、次世代システムへの期待となっていったのである。
(次回;Exxonコンピュータ技術会議)

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