2011年5月7日土曜日

決断科学ノート-73(大転換TCSプロジェクト-10;Exxonコンピュータ技術会議-4;EREでの議論-1)

 TCCが9日に終わりその日の内にニュージャージに移動、10日はExxon全体の情報技術部門ECCSを訪ね、工場管理システムに関する調査を中心に、何人かの専門家(主に機械・金属・設備保全)の話を聞いたり、同じ敷地内のEREのビルにある旧知の石油化学プロセス・システム・エンジニア、ハンク・モズラーの部屋などを訪れた。
 翌11日は、いよいよ今回訪米の主目的の一つである次世代制御システムに関する打ち合わせのためのERE訪問である。会議は午前・午後の二部構成で用意されており、午前が次世代制御システム(主にSPC、DCS)、午後はプロセス制御アプリケーションを中心にしたもの。午前の部が課題(次世代システム)に対する方向付け検討会だったのに対し、午後はEREのPSE関連部門との情報交換会(主に彼らが東燃情報を収集する)と言う性格で、後者は広範な部門から参加者があった。全体の調整は制御システム課長ともいえるウォーレン・ダッソー氏が取り仕切り、彼と彼のスタッフであるアラ・バーザミアン氏は終日出席だった。
 ここで検討会の概要は一先ずおき、当時のEREと東燃の制御システム関連業務に関する関係を少し述べてみたい(必ずしも正確に理解しているわけではなく、記憶を基にして)。Exxon(旧Standard Vacuum Oil Corp.)と東燃の間には包括的な技術提携契約が結ばれており、設備能力に応じた分担金を払うことにより、グループ内のあらゆる技術を共同利用できるようになっている。当該分野の技術は当初プロセスに付帯した計測・制御に限られていたが、情報技術の進歩・拡大に連れて適用領域を広げていった。そのため汎用コンピュータや通信技術領域とその応用分野(工場管理は両者の境界領域)は別組織のECCSに移される(場所は同じだが)。訪問時EREがカバーしていたのは大別すると、①伝統的な計測・制御システム(計測機器、計装、マン・マシーン・インターフェース)、②ディジタル制御システム(プロセスコンピュータ、DCS)、③プロセス制御アプリケーション(プロセスモデリング、高度制御手法)の三分野に整理できる。この内②は最も新しい部門だが重要な位置を占めつつあった。
 1960年代初期まで導入された計器がハネウェルあるいはフォックスボロー製であるはこの提携の影響であるし(強制力は無いが、EREが製品評価をしたものだけが推薦される。横河は対象外)、ダッソー氏は石油化学工場建設(1961年末スタート)の際川崎工場に滞在している。しかしわが国の経済・技術発展が著しかった時期、’60年代後半に始まるDDC導入では、事前スタディーのためEREでの調査・研究が行われたものの、横河製YODIC採用は東燃独自で決定したし、詳細な(英文による)技術報告も行われていなかった(何かのついでに、断片的にと言う程度)。それだけにEREには刻々変わる最新の状況を知っておきたい、知らせておきたいと言う空気が高まっていた。
 そんなわけで午後の情報交換会は②のメンバーの他に、①部門の課長、ウォルファング氏、③部門の課長、オレント氏や専門職幹部のディーム氏、パーソン氏などが参加し東燃システムについてあらゆる角度から質問が相次いだ。’70年の初めての訪米時に比べ多少は改善した英会話力だが、先方が納得できる対応が直ちにできるわけもなく、持参した資料や黒板を使って出立時間ぎりぎりまで悪戦苦闘させられた。最後の質問者は途中から参加したらスペイン系の人(XXX氏)、英語が分かりづらいことはなはだしかった。ウォルファング氏が「XXX、フィナール(終わり)!フィナール!」と終会宣言してくれた。しかし、東燃グループがプロコン利用を進める力のあることをEREに周知でき、今までになく充実感を感じた会議だった。
(次回予定;EREでの議論-2;次世代制御システム検討)
注:略字(TCC、ERE、ECCS、SPC等)についてはシリーズで初回出るときに説明しています。

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