2011年5月14日土曜日

決断科学ノート-74(大転換TCSプロジェクト-11;Exxonコンピュータ技術会議-5;EREでの議論-2)

 時間を半日戻して11日の午前、9年ぶりのERE訪問先は、もともとは計測・制御のハード部門であったが、ディジタル化が進む中で分派したディジタル制御システム担当セクション。その長は前回紹介したダッソー氏である。彼は東燃との交流が深く、何度か来日していたが私は初対面だった。しかし今回の出張に関して細かいところまで面倒を見てもらった本社情報システム室次長のMTKさんとは昵懇の仲でもあったところから、打ち解けた雰囲気で迎えてもらえた。陪席したのはこの分野の上級専門職(Engineer Associate;個室を持つ)であるアラ・バーザミアン氏。彼とは1970年訪問のときに会っており、後で述べるようなやり取りで忘れられない男である。
 打ち合わせ用件は次世代制御システムに関するEREの見解であるが、話の切っ掛けは「TCC(Exxonコンピュータ技術会議)はどうだった?」とこちらが話しやすい話題から入ってくれたので、一気に緊張が解け、後の話にスムーズにつながっていった。
 会議の前半は専ら東燃グループの工場管理・プラント運転用コンピュータの現状説明で、第一次石油危機以降(実は訪問時第二次危機が起こったばかり。ガソリン不足が生じていた)如何にプロセス制御用コンピュータが重要な役割を担い、実効を上げているかを説明し、それがどんな問題(拡張性、保守性、アプリケーションソフトの移行性など;本シリーズ-2、3参照)を派生しつつあるかを縷々述べていった。
 状況説明とそれらに関する質疑の後、「有効なツールであることは皆認めるところだが、さらに長期に効果的な利用を進めるために次期システムの検討を始めなければならない。これからのシステムはグループ全体で標準的なものを決め、それで統一していきたい。また、その候補はExxonグループ・EREで実用実験や開発が進められているものを対象にしたい」「今までに得ている情報、今回のTCCにおける関連発表および会議場での関係者との情報交換から、対象となるのは①EREがハネウェルと進めている新システムと②ExxonとIBMが共同開発し実用実験しているACS+DCS、の二つに絞られることになるのではないかと思う」と本題に入った。
 ダッソー氏もアラもこの絞込みには即座に同意してくれ、これら新システムへのEREの取り組み状況を説明してくれた。その内容は、ハネウェル新システムについてはTCCで発表したロイ・リーバがこの組織から出ていることもあり、重複するところが多かったが、プロジェクト推進の本陣であることから、それへの期待が如何に高いかが強く伝わるものだった。それに比べるとACSに関しては「あくまでも実験的な取り組みである」ことを強調し、「汎用機を利用するところから、経済性は現時点ではむりがある」との意見であった。この経済性に関してはこちらから「最近発表された中型機4300を採用すれば改善されるのではないか?」と問いかけてみたが、彼らも4300に関してはほとんど情報が無く「しかし汎用機を使うことはいろいろ問題があるだろう」と決して前向きな返事をしてくれない。そこで「TCCの会場でExxon USAのボブ・ボルジャーと話したが、彼らはACSに強い関心をもっており、次期システムの有力候補と言っていたが・・・」とさらに畳み込んでみた。この話は彼らにとって意外で、知って欲しくない話題だったようである。二人は顔を見合わせ苦笑いしている。「そんなことを知っているのか?!」と言う雰囲気である。
 一呼吸おいてダッソー氏が「あそこは力があり、EREなしでやっていけるからね」と、関係が微妙であることを窺わせる発言をし、「ところで東燃がACSを検討する際DCSはどうするんだい?」と返してきた。「横河とはディジタル化推進で緊密な共同開発環境を作り上げてきた。彼らもDSCを既に製品化し、次期システムも具体化しつつある。出来ればACS+新横河DCSとしハネウェルの新システムと比較したい」と答えると、再び不満気な顔になった。横河システムはEREの公式評価を全く受けていないからである。
 この後の話は、如何に次世代制御システム(SPC、DCS、マンマシーン・インターフェース、通信)の開発と現場導入が難しいものか、一社でまとめたシステムが如何に取り扱い易いか、つまりハネウェル以外のシステムをEREとしては積極的に推したくないと言う説明が続くことになる。
 私もこの時点でACS+横河だけに絞り込むつもりは無かったし、EREの立場も理解しているので、“ACS+横河DCS”を比較対象として取り上げることに了解を得られるよう話を持っていった。また、「比較調査はEREにも積極的に関与してもらう形態を考えたい」と表明すると、「東燃もプロジェクトを自力で進める力があるからな」との返事を引き出すことが出来た。
 昼食はEREの食堂で4人(ERE、東燃それぞれ二人)で摂った。その際アラに「1970年訪問した時、コンピュータ制御に関して今回と同様の情報交換の場を持った。私の英語があまりに拙いので、貴兄が“ほかの外国語は話せないか?ドイツ語は?フランス語は?”と訊ねたのを覚えているか?」と問いただすと「エッ!そんなこと言ったっけ?」と大笑いになった。彼の一族はアルメニア人、戦後の欧州の混乱の中で辛酸な環境を生き抜いてきたに違いない。
(次回;比較調査への取り組み)
注:略字(TCC、ERE、ECCS、SPC等)についてはシリーズで初回出るときに説明しています

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