2011年6月12日日曜日

決断科学ノート-77(大転換TCSプロジェクト-14;比較調査への取り組み-3)

 サブタイトルは“比較調査”だが、ここでそれから一時はなれ、その間に併行して進められた工場での仕事に触れてみたい。
 今回のプロジェクトは新規プロジェクトではなく、基本的には既存システムの置換え業務である。東燃(そしてExxon/Mobil)ではR&R(Repair & Replacement;修理・取替え)と呼ばれる範疇のもので、投資理由説明そのものは新規に比べて簡単に済む。ただ問題なのは、全社・全工場共通システムとするための付加的な作業に要するコストが第一世代システムよりかかること、加えてこの際適用範囲を拡大・強化するための投資もあり、総投資額が既存製品の新品価格を合計したものを大幅に超えることが間違いないことである。つまり経済性検討に関しては、プロジェクト実施の時間的な長さも勘案して(全体共通システムの開発と個別の置換えプロジェクト)、従来とは異なる整理が必要なのだ。
 経済性検討と密接に関わるのが取替え工事の基本計画(主要工事内容とスケジュール)である。当時装置の定期修理は2年毎になっていた。取替え工事そのものは実施年度に行うが、出来るだけ定修期間を短縮するために事前工事を行うことが望ましい。場合によってそれは本取替えの2年前に行うことも必要になる。地味だが取替えプロジェクト成否のカギと言っていい。
 第三は新システムゆえに生ずる問題である。時々の経営状態、業態、歴史的背景、地理的要因などで異なるプラントの運転方法を新しい道具に合わせて変えなければならない。経済性検討が専ら数値に依存するのに対して、ここは労務上(組織・職種・昇進・処遇)や心理的・情緒的な問題も含んでおり、論理的にスパッと決められない難しさがある。
 共通システムそのものに関わる課題は本社中心に構成された比較調査とメンバーが重なる“中央推進チーム”が取り組むものの、経済性・取替え工事・運転体系の整理は工場ごとの環境が大きく効いてくるので、ここは各事業所のシステム技術課の仕事になる。
 経済性検討で苦労が多かったのは和歌山工場である。それは主力工場でプロコン導入は早かったのだが、装置の建設時期が一部は戦前のものを活用して昭和20年代後半から40年代半ごろまで続き、石油化学や川崎工場とは異なり小規模なプラントが散在し(従って小計器室が多数在る)、計器の装備状況もかなり貧弱であった(絶対数が少ない上に現場型計器・空気式計器が多い)からである。この欠陥は第一次石油危機の際露呈し、省エネルギー活動への取り組みに他工場に遅れをとることになる。
 第二世代導入では、これら計器室を統合しセンサー装備率を上げ、電子化・遠隔化を推進することを目論むのだが、当然投資金額も単なる置換え相当で済まない額になる。それを経済的に成り立たせるためには既存プロコンを利用して省エネや収率改善のアプリケーションを少しでも多く開発し、リターン項目を増やす必要がある。このために本社や他事業所から急遽アプリケーション・エンジニアを送り込んで問題解決・経済性向上に当たらせた。
 計器増設・電子化・計器室統合など計装に関わる課題が多々あることから、取替え工事に関する作業も複雑で、その計画検討には周到な準備が必要だった。
 和歌山工場のこのような状況に比べれば石油化学や精製の川崎工場は、装置の集積度も計器の装備率・電子化も進んでおり数値の見直し、新規開発アプリケーションの洗い出し程度で投資額の整理にはさほど苦労しなかった。ただ精製工場は敷地が比較的狭い所へ、高密度で装置が建設されているので、既存の計器室建屋だけで取替え工事を如何に上手く進められるかが最大の課題だった。そんなところへ思わぬ爆弾が投げつけられた。
(次回予定;比較調査-4;工場での準備-2)

注:略字(TCC、ERE、ECCS、SPC等)についてはシリーズで初回出るときに説明しています。

1 件のコメント:

Wave さんのコメント...

真殿 様
いつもお世話になっております。

私は4月に続き6月20日にもバングラデシュに向けて出張をさせていただきます。
バス交通部門については、取引先(Bangladesh Road Transport Corporation)の
CityBusの増強に伴って少しづつですが経営も改善されて行く予定です。
その対応や状況把握も含めて出張させていただきます。

ジェトロセンサー7月号に弊社の取組みを記事としていただけました。
http://books.jetro.go.jp/jpn/

また、いろいろとアドバイスをいただけると助かります。

今後ともご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します。
                      矢萩 章