2011年11月13日日曜日

決断科学ノート-98(大転換TCSプロジェクト-35;TCSをビジネスに-3)


1983年は組織的にも個人的にもいろいろ大きな変化の因となる出来事があった年である。1月のTTECにおけるACS販売を中心とするシステムビジネスの立ち上げを始め、いずれ本ノートに別テーマとして掲載予定の、メインフレームの置換え計画(IBMを継続するか国産機に置き換えるか)も詰に入ってくる。これらの仕事にキーパーソンとして欠かせないTKWさんが4月から一年間慶応ビジネススクールに派遣されることになる。加えて私自身も秋からの米国のビジネススクール行きが計画されていた。振り返ってみればこの年がビジネスマン人生の一大転換の時であったのだ。                             
ACSビジネスは専らIBMの営業について廻るのだが、IBMもユーザーも東燃の実績を話題の中心に据えている。一通りの説明が済むとほとんど技術者同士の専門的なやりとりになる。技術者としてこんなに面白いことは無い。商売を忘れてつい議論を沸騰させてしまう。帰路IBMの担当者(地方の営業担当者やACS営業専任者)から「技術的な話し合いもいいが、ゴールは売ることですからね!」と忠告・指導を受けて、武士の商法を大いに反省させられたりした。同行するうちに、市場予測、顧客分析、マーケティングなど営業活動に関するIBMの戦略・戦術を間近に学ぶことが出来、その後の新事業展開に大きな糧となった。
営業協力以外にもIBMは新規ビジネスが進むよう、ACSに関する注文を出してくれた。例えば、ACSマニュアルの翻訳や石油・石油化学向け販促のための資料作りなどがそれらである。マニュアルの翻訳は長い歴史があり、購買部門は確りした査定基準を持っている。一ページは何行何語で構成されかを大雑把に把握して、そこから見積り価格を算出するのである。問題は翻訳の単価である。こちらは「内容によって難易度が違うはずだ」と主張し何とか高い価格に持っていこうとする。さすがに購買もACS(高度制御)はまるで分からない。数少ない社内の専門家(その多くは東燃スタッフと一緒に米国でACSを学んだ)に聞くと「これはかなり専門性が高いので他社では出来ない」などと答えてくれる。実際発注部門からのクレーム・修正はほとんど無く、ACS部門以外にも評判が高まっていった。
そんなある時、当時新事業も担当していたNKH常務から呼び出しがかかった。出かけてみるとIBMからの丸秘資料というものを見せられた。そこには国内におけるACS市場分析が描かれており、石油・石油化学に限らず化学・電力・ガス・鉄鋼・セメント・ガラス・食品・薬品など広義のプロセス工業への期待販売数量が記載されていた。「IBMからこれをベースに事業展開協力の提案がある。中身を一度検証してコメントをくれ」ということであった。無論TTECACSに関する事業を始めていることを知った上でのご下問であったが、もっと大きなビジネスプランを窺わせる問いかけと感じさせるものがあった。数日後数量分析結果を付けて「きわめて楽観的な数字で、とてもこれほどの数が売れるとは思えない」と報告した。常務は「こう言う分析が欲しかった」と言って、この話は終わった。
しかし、これはその後のACSビジネス、更には新規事業展開にインパクトを与える出来事だったのではないかと思っている(以下のことがこの話から繋がったという確証は無いが)。特にIBM側はそれまでTTECのビジネスはACS導入技術サービスの提供を顧客に行うことに焦点を当てたもので、IBMビジネスの外周にある仕事をこちらに回すというものであったが、それに加えて新たにACS販売成功報酬を支払うシステム(アフィリエート・マーケティング)を作り、こちらのやる気を引き出す仕組みを提案してくれたのである。
(次回予定;“TCSをビジネスに”つづく) 

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