2011年12月31日土曜日

決断科学ノート-106(大転換TCSプロジェクト-43(最終回);“大転換ダイジェスト”)


 TCS(IBMACSAdvanced Control Systemと横河電機製のDCS;分散型コンピュータ・コントロール・システム;CENTUMで構成される東燃プラント・コントロール・システム)は現在でもまだ使われており、エクソングループ内では2015年まで使うと言う(一部は既に第三世代に置き換わっているが)。東燃での検討開始が1970年代後半、最初のシステムが動いたのは1983年、ほぼ30年(今年で28年)の歴史である。コンピュータによる初代プラント制御システムが1968年スタートし、その技術発表会で「ところでこのコンピュータ制御システムの寿命は如何?」と聞かれ「10年から15年」と答え、その通り何とか15年持たせることが出来たのと比べ、この2代目の息の長さには昔日の感がある。                                   
当時のコンピュータで“移行性”に最も優れたIBM汎用機をプラットフォームにしたことと横河のCENTUMシリーズの成功がこの驚異的な長寿を実現したわけである。この28年の間に様々な変化が石油業界、IT業界に起こっており、出発点では予想だにしなかったことが企業にも個人にも次々に生じてきた。今回はそれを列記してこのテーマを終えることにする。
IBM90年代後半にACSの販売を中止した。日本では30セットを超すシステムが導入されたがその他の世界ではトータルでもそれを超すことはなかった。日本での成功モデルを世界に広めるべくIBM本社は日本IBMに学ぶこといろいろ試みたが上手くいかなかった(米国、カナダ、インドネシアなどで開催されたセールス担当者向け講習会に講師として招かれた)。これ以降IBMはプロセス制御の世界からは撤退している。一気に進んだダウンサイジングとオープン化の進展がそれをもたらし、IBMは製造業からサービス業に大変換している。
・横河のCENTUMはその後も改良発展を続け、代表的なDCSの一つになり、そのグローバルビジネスの旗艦としてハネウェル、エマーソンなど錚々たるライバルと世界で熾烈な戦いを展開している。結果、海外売上げが国内を遥かに凌ぐグローバル企業に変貌した。
・東燃の情報システム部門は実戦部隊が子会社、SPIN(システムプラザ)に移り、専ら企画業務を専門にする組織に変わり一気にスリムになった。アウトソーシングのさきがけとなり、それはあらゆるユーザー企業のトレンドとなった。
・やがてSPINは、石油・石油化学のコアービジネスで無いとの理由で、順調に業容を拡大していたにも関わらず、リストラ(事業再編成という真のリストラ)を求められ、横河電機に1998年売却される。IBMがサービス業に転じたように、横河電機もハードヴェンダーからソリューション(顧客の経営問題解決)サービス提供者の道へ舵を切り替える経営戦略採用したからである。
TCS関連ビジネスのように他社(ACSIBM製品)製品をプラットフォームを利用し、それに付加価値をつけるビジネスはソリューション提供者の役割そのものである。 SPINは、ACSのあとMIMI(生産計画・スケジューリングツール;米国のCDS社製)、 PI(リアルタイム・プラント運転データの収集・分析ツール;米国OSI software社製) 、Renaissance(経営統合情報システム;米国のRoss社製)などの総代理店となりプロセス産業界向けシステムインテグレータとして、ユニークな存在となり、海外にもその名を知られるようになった。
TCS導入では、その切っ掛けに関わっただけでプロジェクトの中心メンバーではなかった私も、SPIN設立では推進役の一人としてそのスタート時から移籍し、やがて役員、社長となって情報サービス業に専念することになる。そこでは国内の石油精製・石油化学ばかりでなく、海外を含め広くプロセス工業やIT業界に友人・知人を増やすことになる。
・この石油業と海外経験が、2003年社長職を退き、再び現役として横河本社海外営業顧問になった時生かされ、ロシア、ウクライナを初めハンガリー、イランなど東燃・エクソングループでは体験できない世界を広げてくれた。それも60歳を遥かに過ぎてからである。もし、ITと深く関わる世界に踏み込んでいなければそれも無く、ましてやブログ開設も無かったであろう。その意味でもTCSが今日の私を在らしめていてくれているのだ。

今回をもって2月から(大震災で一時別テーマとなった)続けてきた“大転換TCSプロジェクト”を終了します。長期にわたるご愛読に深謝いたします。
どうか良いお年をお迎えください。
-完-

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inav さんのコメント...
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