4. 1986年のトピックス-1;プロパー社員採用-2
プロパー社員採用には、それを株主である東燃がOKするかどうか以上に大きな問題があった。それは少人数の女子社員であっても、将来を考えれば、独自の人事制度を設計する必要があることだ。それまでの大部分の構成員は東燃グループからの出向社員、これらは所属するグループ会社の処遇に準じて扱われる。異なるのは外部委託しているコンピュータ・オペレーション担当者と数人の派遣社員だが、これらの人たちはそれぞれの会社の人事制度に依って扱われるのでSPINの制度とは関係が無い。
石油精製・石油化学(の上流部門)は売上高や利益に比して人員数が極めて少ないこともあり、業界全体として給与ベースは他産業に対してかなり高かった。その中でも東燃はトップクラス。また装置産業では人個人の能力より経営効率に関する装置への依存率が高いので、管理職や高位の専門職を除き処遇の個人差は小さい。これらと同じことを情報サービス業界で採ることは全く考えられない。業態・職種に適した処遇制度を導入することが健全な経営を長く続けていくためには必須である。一方で、東燃や東燃石油化学(TSK)からの出向社員にしてみれば、偶々情報システム部門に配属になったため急に処遇が変わることに不本意である。これは情報サービス子会社に限らず、分社化で新会社を作る際に共通する課題と言える。とにかく他社がこれをどのように対応しているかを調べることから始めた。
とは言っても人事施策はこの業界では最大の差別化因子と言っていい経営マター、簡単に本音の話や数字が出てくることはない。役員や社員の個人的なチャネルを通じておおよそのところを教えてもらうのが限界であった。私個人の相談相手は、大学・高校の同級生(NHK;NHKコンピュータサービス)、海外研修旅行で一緒した仲間(日本生命;日生コンピュータ)、学会活動を介したもの(京大教授→東洋情報システム;三和銀行グループ各社からの出向者が経営の中枢)、ユーザー企業知人を介したもの(マツダ→コスモ80;IHIの子会社だったがIHIが本体取り込みに変じたとき有志80人が飛び出し、三菱商事・IBMなどの出資を仰ぎ独立する)などで、親会社・子会社それぞれの考え方や制度とその運用、それによる問題点をわりと率直に教えてもらうことが出来た。こうして参考にした会社は20社近い。
分かってきたことは、いずれの会社も複数の処遇制度でスタートし、時間をかけてその一本化を目指していることであった。親会社の経営環境にも依るが、概して親会社よりは給与ベースは低く、それ故に親会社と同等の学校からの採用は難しいのが実態で、ある経営者は「偏差値40台の大学から採用し、50台に育て、60台で売り込む」のだと語っていた。
ここから得た結論は、「とにかく男女の差はなく、業界に通ずる人事制度を設計し、それに基づく採用活動を行い、出向社員の扱いもプロパー社員が増え、彼らが戦力化してきたところで選別(必要な者は新処遇制度に移し、不要な者は本籍に戻す)し、一本化しよう」と言うことになった。
夏休み前にリクルート雑誌に女子社員新卒採用の記事を出すと、量としては相当な応募があったが、当時は日本経済の上げ潮時、東燃ですら情報技術系のエンジニアの採用に苦労していたくらいだから、書類上で「これは!」と思えるような人材は見つからなかった、しかし適性検査、筆記試験、面接と進んでいくと、「鍛えれば使えそうだ」と思える学生が8人ほど残った。これがSPINのプロパー新卒採用第1期生である。
(次回;1986年のトピックス―2;ビジネス展開模索)
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