11.トレド
スペイン旅行を決めたとき、水泳仲間でヨーロッパ駐在が(年金をもらえるほど)長かった商社員のTBTさんから「トレドは組み込んでありますか?」と問われ「マドリッドの近くだから是非」と薦められた。到着地(バルセロナ)・出立地(マドリッド)とアンダルシアは頭にあったがトレドは即答できなかった。家に帰って調べたら幸いマドリッド観光の中に確り組み込まれていた。事前準備に購入した「魅惑のスペイン」(新潮社)に依れば「もしスペインでたった一日しか時間がなかったら、トレドを見よ」と書き出しにあるほどの場所であった。前回書いたように、6月11日(木)のほとんどはここに時間が割かれていたのだ。
その日は前夜半から雷鳴を伴う雨が時折強く降るような天気で、朝起きたときも黒い雲が低く速く走り、歩道は濡れていた。現地ガイドのKMRさんはレインコートのいでたちである。ホテル出発は9時、小雨の中を一方通行の細い道を抜けバスは南西に向かう自動車道に入る。ラッシュアワーだが日本流に言えば下り道路だから流れはスムーズ、やがて空も明るくなり雨は上がった。
50分くらい走ると自動車専用道路を外れトレド市内に入る。最初の立ち寄り先、金工・象嵌細工の工場兼販売所。高価な展示品の中には明らかにイスラムの影響を受けたと思われる美術品もあり、見学するだけでも楽しい。家内も含めご婦人方がアクセサリー類のお土産を求めている。
そこを出てしばらく近代的に整理された市中を進むとトレドの中心部に至る。高い丘陵部は総て城壁に囲まれいかにもヨーロッパの城郭都市であることが分かる。新市街から城内への道は何と複数が並走する長いエスカレータ。これに取り付いたとき再び激しい雷雨。エスカレータは屋根で覆われているので、濡れることはなかったが最終到着点はそれほど広くないので大混雑・大混乱。少し小降りになったところで旧市街へ傘をさして向かう。足下はびしょびしょ。狭い石畳の道を時々抜けていくクルマを避けながらの移動は辛い。
最初に訪れたのは大聖堂(カテドラル)。13世紀から16世紀にかけて建設され、その後も19世まで細部の増改築が続いたものである。ただ今まで観てきたその他の大聖堂とは異なり、イスラム寺院を改築したものではないので(モスク改築の小教会は別に在る)、純スペイン建築の総合版とも言える歴史的な建物である。中央部には主祭壇と聖歌隊席が置かれているので空間的な広がりはそれほど感じられない。周辺の見ものは聖具室でここにはグレコやゴヤの作品が置かれている。グレコはこの地で活躍したのでグレコ美術館やグレコの家も名所巡りの一環としてあるくらいだ。
次に回ったのはサント・トメ教会、ここも目玉はグレコであった。何度か書いているようにどうも宗教絵画は好きになれない。特にカソリックのそれは“おどろおどろしさ”を感じてしまいダメだ。その仕上げがこの教会であった。
昼食はこの城郭都市全体を外から見晴らす場所で摂ることになっている。時間もあるのでしばし城内旧市街見物の自由時間をとることになる。幸い雨も上がり、雲間に青空も見えだしたので、歴史のある道々をあちこち散策してみた。前ローマ、ローマ時代、イスラム時代、レコンキスタ(キリスト教徒に依る国土回復)、そこに寄食したユダヤ人街、市民戦争で傷められ修復されたアルカサル(城砦)、に見る歴史。そして城壁から見下ろす湾曲する自然の障害タホ川。マドリッドがこの古都を守るための前哨基地として建設されたという優れた立地条件。“スペイン観光必見の場所”を確かに理解した。
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(次回;トレド;つづく)
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