2016年3月6日日曜日

決断科学ノート;情報サービス会社(SPIN)経営(第Ⅱ部)-38


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結局前夜のパーティにPatは現れなかった。「翌日のトップバッターなのに何かあったんだろうか?」そんなことを思いながらその夜は終わった。翌朝朝食の場でも何人かに「Patは来てるかい?」と問うが、誰も見かけていないとの返事。しかし、全体セッションが始まると、そこにはちゃんとスピーカーが居る。チェアーマンがPatの紹介の中で初めに言ったことは「昨日今シーズン最後のインターハイフットボール試合があり、息子がその試合に出場していたので、それが終わってから、夜を徹してカリフォルニアからクルマを飛ばして、先ほど到着したばかりだ」とのこと。どうもその試合は全米高校地区代表による決勝戦のようなものらしく、アメリカ人たちは一斉に歓声を上げ拍手喝采。Patも嬉しそうに手を振ってそれに応える。辛気臭い学会ムードはまるでない。これがPatとの初対面である。講演内容は先に挙げた文献内容に若干それ以降の新しい技術開発結果を反映したものだったので、内容理解も充分出来た。
午前のセッションが終わると昼食時直ぐに彼のところに行き、自己紹介と学会後の訪問を確認した。私は参加前に彼がここへ来ることをプログラムで知っていたが、彼の方はそんなチェックは行っておらず、たいそうびっくりしていた。あとあと付き合ううちに分かってくるのだが、割とずぼらなところがあり、「ああ、日本から誰か来るのは覚えているが、何日だっけ?」などと問い返され、こちらが唖然としてしまう。
彼は学会にフルタイム参加はしておらず、一泊しただけでカリフォルニアへ帰ったが、私は金曜までそこに留まり、デンバー経由で二人のバークレー時代の友人が待つダラスに出た。卒業来10年ぶりの再会を喜び合い、それぞれの家族と土日を過ごした後、月曜日の朝ダラスを発ちオークランドに向かい午後到着。タクシー乗り場でOSIの住所を書いた紙を運転手に示すと、他のドライバーを何人か集めて相談を始める。「住所はおおよそ分かるが、こんな会社在ったけ?」と言う雰囲気である。「まあ、行ってみるか」と走り出すと10分もしないうちに、工場や倉庫のような建物が並ぶ一画にクルマを停めて「この辺りのはずなんだが?」と辺りを窺がうが、看板も人気もないのでいかんともし難い。するとひとつの建物から若い女性がタクシーに向かってやってくる。「Mr.Madono?」で運転手も私もホッとする。案内されたのはブロック外壁・トタン葺きの(様な)平屋、年代物の建物だ。Patが入口で待っており、直ぐ社長室に招じ入れられた。そこでまたびっくり。広い部屋ではあるが、床の上まで書類や雑誌が積まれて乱雑なことこの上ない。
そんな部屋で自己紹介もそこそこに商談を二人で始めた。OSI製品PIを日本で取り扱うことに特に問題は無かったが、“総代理店”になる話はすんなりいかない。と言うのもOSIは既にグローバル展開を始めているものの、どこにも独占的な販売権を与えることはしていなかったからだ。Patは「PIは誰がどこで売ってもいいんだ。だから日本だけ例外は認められない」とのこと。実はそれに対する対案は考えてあった。「ではPIの日本語化をSPINが行い、それに関しては国内で独占的に扱わせてほしい」とボールを投げ返した。それに対して「日本語化もここで進めているところなんだ」とさらに投げ返してきた。これは予期せぬことだったが「どんなものだか見せてもらえるか?」と言うと「見せてやろう」と倉庫様の中の一室に案内してくれ、一見日本人風のスタッフを紹介してくれ「彼が専門SEと開発しているんだ」とデモを行うよう命じる。酷い製品だった。日本人風のスタッフはTKRT(日本姓)と言う父親が日系米人、母親が白人の混血、夫人は日本人とのことだが本人は完全に米国人、日本語は片言会話程度、読み書きは出来ない。開発者は中国系だがこれも米国人。漢字の理解はある程度あるようだが、KRT[同様読み書きは出来ない。加えて漢字のフォントが稚拙で、とても日本で使えるような代物ではない。Patも含めた3人の前で率直に「これでは日本で売れないばかりか、かえってPIの評判を落とす」と言ってやった。担当者が反論するかと思ったが、意外にも二人ともこちらの言い分に納得。再び社長室に戻るとPatは日本語システム開発と総代理店をSPINに任せると認めてくれた。これがのちの主力商品の一つになるPIビジネスの始まりである。

(次回;総合CIMインテグレータへの歩み)


1 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

SPINと聞きますと社名を東燃グループ社員に公募されましたね。システム・プラザは、当時東亜燃料工業製造計画部で同僚の西川義春さんが当選されたかと思います。その後、東燃システム・プラザになったかとも思います。
懐かしいです。