2.広がる顧客と新商品
1988年の取締役就任時120名だった従業員数は1993年末には230名と倍増し、売上高も20億円から50億円を突破するまでになっていた。ここまで来られたのは、既にバブル経済は弾けていたが、新しいIT環境(ネットワークとダウンサイジング)の下で依然としてシステム更新・強化の流れがつづいていたことと設立時から標榜してきた“顧客をプロセス工業(石油・化学・金属・ガラス・セメントなど装置を主体とする製造業)に絞り込み、そこでNo.1システムインテグレータ(SIer)になる”路線が目論み通り進められたからである。外から製造工程をうかがい知ることができないゆえに独自のノウハウ(製造技術にとどまらず経理や購買を含む事務処理を含む)を生かせ、差別化に成功したのだ。
このきっかけになるIBMのプラント運転制御システムACSは1970年代に汎用機をプラットフォームとしてExxonと共同開発されたもの。多くの石油・石油化学会社に採用されたもののさすがに90年代に入ると引き合いがパタリと止まってしまう。しかし、これに代わる製品としてOSIsoft社のリアルタイムプラントデータ収集システムPIやChesapeake Decision Sciences(CDS)社の生産管理システムMIMIを米国から導入、さらに自社製品である品質管理システムLab-Aid、保全管理システムPLAMISなどを取りそろえていたので、ACSの穴を埋めるばかりか、新規業種からの引き合いや顧客獲得につながっていった。例えば、PIでは味の素、サントリーなどの食品業界、MIMIはブリヂストンを始めとするタイヤ業界、PLAMISはトヨタ自動車傘下の豊田スチールセンター、Lab-Aidは薬品業界と言うようにである。
当時の製造業ではCIM(Computer Integrated Manufacturing)と言う略語が流行っていた。個別業務機能を統合して製品開発→原料(あるいは部品)調達→製造(品質管理や設備保全管理、配員計画などを含む)→販売(会計処理などを含む)を一体化して、ビジネススピードを上げるとともに歩留まり改善や在庫コストを最小化することを図ろうとする動きである。しかし現実には個別機能のパッケージソフトは在っても、統合は手作りと言う状態であった。この環境を革新すべく登場したのが、SAPに代表されるERP(Enterprise Resource Planning)統合型業務パッケージである。当社もプロセス特化のSIerを目指すならそれに適した製品を持ちたい。そこで着目したのが米Ross社のPROMIX(のちのRenaissance)である。この会社と製品については別途取り上げるが、ここまで品ぞろえができればプロセス工業の全情報システムをカヴァーできることになる。これらと手作りソフト開発が社長就任前までのSPINの商品・サービスラインナップである。
創立9年、プロセス特化SIerとして知名度が上がってくると、こちらが動き出す前に顧客や商社などから引き合いや情報が入ってくる。そんな中に面白いソフトが2種あった。一つはパイプライン(石油、ガス)モニタリングシステム。もう一つは資源配分(組み合わせ問題)最適化のソフトウェアである。
パイプラインモニタリングの話は当時の帝国石油(現国際石油開発帝石;INPEX)からもたらされ、新潟のガス田から集められた天然ガスを東京ガスの供給ラインに結ぶシステムである。長距離パイプラインとしてはわが国唯一もの。旧来のシステム(手作り)の更新のために英国製の専用パッケージを導入したいとの話であった。中東や米国に多くの実績があるので、採用前提で調査依頼がきたのだ。問題はプラットフォームがDECのミニコンであり、当社には専門家が皆無だったが中途採用をしてこれに応じることにした。結局このビジネスはこれ一回だけだったが、滞りなく導入・稼働し顧客から高い評価を得た。
もう一つは三菱事務機械(三菱商事の子会社)が提携先のマシンブル(仏)の商品として持ち込んできた“ソルバー(Solver)”である。例えば大判の紙やフィルムをいくつかの仕様の商品にできるだけ無駄なく裁断する。あるいは職種の異なる限られた数の設備保全要員をいくつかの現場に効率よく配置する。こんな問題が与えられたときそれを合理的かつ素早く解くのがこのソルバーの役割である。そこに使われているのは“制約プログラミング”と呼ばれる数理手法。当社が線形計画法やスケジューリングの実績があるところからもたらされたものである。まさかこれが東京ディズニーランドのスタッフ配員計画に利用されるなど、その時は全く予想もしなかった。マシンブルはやがてこのソフトを国の研究機関からスピンオフしたILOG社に譲渡、さらにこの会社はIBMに買収され(最近SAPも資本参加)、世界的な数理技術会社として活動している。
いずれも“プロセス特化”が認められてのことで、忘れられない経営トピックスである。
(次回;Ross社とルネサンス)
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