3.Ross社とルネサンス
SPINのビジネスは、石油や化学を主としたプロセス工業を対象にした、工場・プラント操業管理システムとそれらを基盤とするする本社の販売・購買・会計などに関わる手作りソフトが大勢を占めていた。プラント操業管理に関する様々な機能(プラント運転制御から設備保全まで)はダウンサイジングの中で急速に手作りソフトからパッケージに置き換わりつつあり、前回書いたようにそれらの品揃えも整ってきていた。しかし、それらから上がってくるデータを全社経営管理に役立てるには統合的に扱える経営管理システムが必要なのだが、この部分は依然として汎用機の上で動く、各社各様の手作りシステムが主流であったし、そこに差別化の決め手が在るとさえ考えられていた。
それに挑戦し、パッケージ化に取り組んでいたのが1990年代初期のSAP社(独)である。SAPと言う言葉を最初に知ったのは欧州の関係会社を廻ってきた東燃役員からであったが、この分野の専門家ではなかったため「IBM汎用機の上で動く会計用パッケージ」と言う程度の報告しかなかった。それでも“パッケージ”に惹かれここを調べていると、発案者・創設者がICI(英国の大手化学会社)などを担当してきたドイツIBMのSEであることが分かってきた。「もしかするとプロセス工業に強い会社かもしれない。それならMIMIやPIのように日本語システムと一部機能の日本化を材料に特別な関係が築けるのではないか」との考えを強め、この会社への接近方法を探るうちに、日本IBMから「既に何社かの大手システムインテグレータ(SIer)が提携関係を模索しているが、代理店方式は望んでおらず日本法人設立を準備中で、日本語システムはプライスウォータ日本法人が手掛けるらしい」との情報が入った。そこでひとまず社長就任挨拶を兼ね、東燃時代から懇意だった元日本IBM副社長で当時プライスウォータの社長を務めていたKRSさんを訪れ、話を聞いてみることにした。ここで出たのは「確かに日本語化に着手しており、当面プライスウォータが日本での市場開拓の統括を行う。ビジネス展開の準備が出来たらお知らせするから一緒にやりませんか?」とのことであった。この時は先方も準備中、こちらも表敬訪問だったので、それ以上突っ込んだ話はなかった。しかし、その後ビジネスプランの具体化が進んでくると、我々は多くのSIerの一つに過ぎないこと、初期投資(特に専門SEの教育;一人当たり2百万円近く要した)に多額の費用が掛かること、製品価格が極めて高くサービスを含めると一つの案件に数十億円から百億円を超す費用を要することなどが分かってきて、とてもSPINの実力では直ぐに取り組めるものでないことが明らかになってきた。加えてプロセス工業特化の機能は皆無で、その点でも今一つ魅力を欠いた。
ERPパッケージで当社が取り扱うのに適したものはないのか?このプライスウォータの話に先立って社長就任前からSAP以外の情報収集は行っていた。業界2番手はBaan(オランダ)だったが、これは組立加工業向けの色彩が強く、こちらの望むところではなかった。そんな時アメリカ大使館商務部門が開いた米国ソフトウェア産業展の催しで当社のスタッフが注目したものにRossと言う会社のPromixと言う製品があった。プロセス工業特化なのである。
(次回;Ross社とルネサンス;つづく)
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