8.阿里山森林鉄道-3
奮起湖駅到着11時20分、下りの出発時間は14時だから、それまで2時間半ほどはこの駅周辺で過ごすしかない。計画立案時はてっきりここに湖があると思っており、湖畔の散策と昼食で時間をつぶせば丁度良いと考えていたのだが、この鉄道を詳しく調べるうちに、そうではないことが分かった。奮起はもともと畚箕と書き“ちり取り”を意味し、湖は“みずうみ”以外に“窪地”も表すことから、東西と北を山で囲まれ、雲や霧が漂う盆地がみずうみのように見えることからきているのだ。つまり“ちり取り型窪地”なのである。それでも阿里山への代表的な中継地「何かあるだろう」と期待していたのだが、見事に外れであった。
確かに南台湾を代表すると言われる老街(古い街並み)が駅の周辺に在るのだが、土産物屋や食べ物屋の続くその通りは10分も歩くと終わってしまう。その先にはちり取りの中身を見渡せる展望台とホテルや野外レストランがあるくらい。そこから先は人家もまばらな下り坂で戻りの上りを考えると歩き廻る気は起きない。
チョッと時間は早いのだが、朝が早かったこともありひとまず昼食を摂ることにする。何軒か駅周辺の食堂をのぞいてみて一番客が入っている“奮起湖大飯店”で当地名物の“便当(弁当)”を食することにする。丸いアルミ弁当容器の中に鳥のもも肉と豚肉、卵、タケノコなどをウーロン茶で甘辛く(甘味が強い)煮込んだものが、ご飯の上にのっている。汁物は好きなだけ別の器にとる。一人120元。味も値段も量も申し分なし。最近は町中のコンビニでもこの弁当が売られているとのこと、その人気が分かる。そうは言ってもここまでくるには、実は苦難の時期があったようだ。
阿里山森林鉄道は森林鉄道とはいえ、1982年までは嘉義・阿里山を結ぶ唯一の交通手段、それまでは列車の本数も多く、この弁当が一日千食も出ていた時期もあったらしい。しかしこの年阿里山公路(道路)が開通し、観光客は一気に時間のかかる鉄路からクルマに移ってしまい、弁当の売れ行きが減じてしまう。そこで商売のやり方を変え“観光弁当”に転じて今日の隆盛に至ったとのことである。まるで長野新幹線開通で様相が一変した、碓氷峠下横川の釜めしと同じ話だ(横川は信越道も通ったので、旧道はバイパスされているはず。今はどうなっているのだろう?)。
昼食を終えると旧機関庫がチョッとした鉄道博物館になっているので、そこを一覧する。昔の小型蒸気機関車やループ路の模型が置かれていたり、黒部峡谷鉄道や大井川鉄道との姉妹関係を説明する資料・写真やヘッドマークなども展示されており、鉄道ファンにはそれなりに面白い。しかし、食事とここだけでは14時までまだまだ時間が余ってしまう。仕方なく最初に訪ねた展望台に戻り、ベンチに座ってぼんやり出発時刻を待つことにする。大方の乗客も大体そんな風な行動パターンである。
14時丁度、正確に下り列車は出発。今度の席は3号車の9,13番、上りと同じ側なのが残念。来るときには全くいなかった立客が各車両数人いる。検札が来たが特に問題もないようだ。しかし45分頃ループの途中に在る梨園寮駅でそれらの客は全員下車した。ループ観光の特別団体客扱いがあるらしい。
下りは機関車が先頭、エンジン排気が車内に漏れ込み臭いが気になる。うつらうつらしているうちに16時20分列車は定刻通り嘉義駅に到着した。雨がポツリポツリと落ちてきた。
(写真はクリックすると拡大します)
(次回:嘉義の夜)
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