8.阿里山森林鉄道
今度の旅の目的は、先ず台湾鉄道一周にあるのだが、もう一つ周回とは別に、世界の鉄道ファンに人気の阿里山森林鉄道に乗ることがある。人気のもとは三重スパイラルループと何カ所のスウィッチバックで、海抜30mの嘉義駅から終点の沼平駅(2274m;72.7km)まで登るその行程だ。しかし現在スウィッチバック部は度重なる倒木事故や台風災害で改修工事中のため、残念ながら終点まで通じておらず、途中の奮起湖(46km)で小型バスに乗り換えて、阿里山(15の山から成り、最高峰は大塔山2663m)に至るしかない。それでも人々は珍しい「三重スパイラルループに乗りたい!」と年間2百万人近くの人がここに集まってくる。加えて、土日(2往復)を除く平日は一日一往復しか運航しないため、乗車券の確保がなかなか難しいことも“希少価値”としての人気につながっているようだ。従って、この座席がとれるかどうかが今回の旅の最もクリティカルな要件。JTBもこれが確定するまで、現地とのやり取りに時間を要し、結局旅程最終確認の連絡があったのは、出発3日前だった。「並び席は取れませんでしたがいいでしょうか?」と。
この鉄道の歴史は古い。日本の統治下1906年(明治39年)着工、11年に阿里山まで開通している。目的は台湾べに檜を中心とする森林資源開発にあった。国内ではなかなか得られなくなってきていた巨木が特に価値があったようだ(神社の鳥居などに利用)。このような目的(限られた種類の貨物運搬、工期短縮、山岳地)のため、軌道ゲージは762mmのナローゲージ(JRの狭軌は1067mm、標準軌は1435mm)が採用されている。これは黒部峡谷を走るトロッコ列車と同じである(あとで述べるが両鉄道は姉妹関係にある)。当然だが、速度は遅く、山岳地と言うこともあるが、平均時速は20km程度である。
新幹線嘉義駅からタクシーでホテルに着いたのは8時15分頃。チェックインは14時以降だから荷物だけ預けて、直ぐに駅に徒歩で向かおうとすると「20分はかかりますよ」と明瞭な日本語の注意。列車の出発時刻は9時だから、道に迷ったりしたら乗り遅れる恐れがあるのでタクシーで駅に向かう。
駅に着くと「阿里山に行くんですか?」とおじさんが寄ってきた。宮脇俊三の「台湾鉄路千公里」に出てくるダフ屋(フリで出かけた宮脇は切符売場が満席売切れで閉まっていたため、ダフ屋から一泊付の往復乗車券を求める。宿泊先はまるで山小屋;宿主は良い人だったが)と思ったので「切符は持ってるよ」と言うと、直ぐに離れていったが、どうも鉄道ではなくマイクロバスの客引きだったようだ。阿里山は現地で一泊する“ご来光拝み”でも有名なので、鉄道ファン以外の観光客も結構おり、鉄道の席に限りがあることから、こんな商売が成り立っているのだ。
ゲージの異なる森林鉄道と言うからJRに相当する台鉄とは別の経営かと思っていたが、駅構内の案内所で聞くと「改札を通って右の方へ行くと乗り場があります」とこれも日本語。台鉄のホームの一角に専用の待合場所が在り、すでに20~30人が集まっている。やはり西欧人を含む観光客と思しき人がほとんどだ。日本人の小グループも居る。待合場所の先はコ字型になっていて、線路はそこで行き止まり。本線用より一回り小さいディーゼル機関車に牽かれた5両編成の列車が入ってくると、再度ホーム上で乗車券のチェックがあり、指定車両を教えてくれる。我々の席は機関車から見て最後尾(進行方向最前部)の5号車の1番と4番。通路を挟んで一人席と二人席に分かれているので、前後という関係になる。山岳列車によくあるように機関車は下り側に在るので前には運転席があるだけなので前方が見通せる(ただ運転席と客席を隔てる窓の位置が高いこと、狭い運転席に車掌?も乗っていることで、それほど見晴らしがいいわけではないが)。9時定刻列車は奮起湖を目指して動き出した。
(写真はクリックすると拡大します)
(次回:阿里山森林鉄道;つづく)
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