16 .九份
台湾は長く中華帝国の域外だったから、古い建造物や宗教的モニュメントは無と言っていい。今回観て廻ったものの中で最も年代物と言えるのは19世紀に建てられた高雄の英国領事館であった。しかし、いくつかの漢書にも記録が残るように、古来人はここに原住しており、民俗学的には面白いところもあるようだ。そんなところを一カ所くらい訪ねたい。初めは東海岸でどこか適当な所をと探したが、スケジュール的に決め切れずいたところ、台北からのバスツアーにこの九份(きゅうふん)と言う老街を巡るコースがあることを見つけた。午後と夕方台北を発つ往復・滞在4時間ほどのプログラムである。ここからの夕日が美しいとあったから、夕食を摂ることも考慮して夕方の便を選んだ(料金に食事代は一切含まれていないが、時間的には配慮されていた)。
予約は全体計画の中でJTBに頼んだ。現地の実施企業は、世界中あちこちでこのようなサービスを提供している“マイバス”。ロンドン、ミラノ、フィレンツェ、ローマ、パリでも利用したことがあるので、要領が分かっていたこともここにした理由の一つである。集合場所は宿泊しているホテルから10分ほど歩いたところに在るシェラトンのロビー。指定の16時半前にそこに着くと、既に現地人のガイド(中年男性)が待っており、直ぐにバスに乗り込み、何カ所かのホテルを廻って客をピックアップしていく。最後に寄ったのが(まともな)マッサージ店。乗客はすべて日本人、若い女性やカップルが多く、およそ20名。ここを出るとバスはラッシュで混雑する自動車専用道に入り、北東方面に向かう。やがて雨がポツリポツリと降り出し、郊外へ出ると本降りになる。南は暮れるのが早く夕闇が迫り、自動車ヘッドライトやテールランプ以外の明かりはほとんどなくなり、とても夕日を愛でるような天候ではない。
17時40分頃狭い九份へのとっかかり道路を抜けて大型バス駐車場に到着。19時20分が集合時間である。ここの観光スポットは長い階段の両側に並ぶ各種商店だ。駐車場からは上りである。そこをマイバス以外も含め大勢の観光客が傘をさしながら上り下りするから大混雑、前後の人の傘から雨が容赦なく降りかかる。ガイドは階段途中の広場まで同行し、「この先の“阿妹(あめ)茶楼”がJTB指定の休憩所です」と言ってあとは自由行動となる。この雨でどこの飲食店も茶館も土産物屋も避難する人でいっぱい、指定の茶館も同様、何とか席が確保できただけでも良しとするしかない。
その茶館では「お薦めはお茶とお菓子のセット」とのこと。誰も食事を摂っている客はおらず、皆それで済ませている。このセットが驚くような値段、一人300元(1000円強)である。最初の台北の夜を除けば、これだけ払えば充分まともな夕食を楽しめるほどの価格である。雨の中を別の休み処を探す気力もなく、仕方なく我々も周囲に合わせる。確かに茶葉は良いものなのだろう、入れ方を教えてくれ、葉が尽きるまで何杯もお代わりするが、朝の残りで済ませた昼食しか摂っていない身には、空腹を満たせるようなものではなかった。早々に茶館を引き払い、少し付近を観光したが雨と傘以外は何も印象に残らぬ九份であった。
帰りのバスは来る時とは反対の順でホテルを廻る。しかし、ガイドは盛んにマッサージ店利用を薦める。歩合があるのは見え見え、今まで乗ったマイバスでは見られぬ光景であった(他の都市で土産物屋にはよく連れ込まれたが)。
シェラトン帰着は20時過ぎ。皮肉なことに雨は止んでいたが、これから夜の食事に出る気分でもなく、宿泊先ホテルまでの道筋に在ったコンビニで弁当やビールを求めて、何とも情けない台湾最後の晩餐を摂った。
(次回:台湾最終日)
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