9.横河電機への株式譲渡-2
1988年にSPINを去ったMTKさんとは、その後も年に2,3回は会っていた。その多くは若い部下を連れて、SPINが取り扱っているプロセス工業向けソフトウェアパッケージを調査し、これを横河のビジネスに生かすチャンスを見つけることだった。最大顧客である日本のプロセス工業、特に素材やエネルギー関連は明らかに事業が頭打ちになっており、ハードウェアの引き合いは置き換え需要に限られ、ETS戦略を打ち出す以前からソフトとサービスに重心を移す必要が生じていた。決定的な自社製品を持たない弱みを、何とか他社製品利用で切り抜ける策を模索していたのである。その一環として、SPINが国内独占販売権を持っているMIMI(ミミ;生産管理ソフト)やPI(パイ;プラント運転データ収集処理ソフト)には特に関心が高く、これらの導入経緯や詳細機能、国内ビジネスの実態について知見を得たいというのが訪問の動機だった。つまりそれまでのMTKさんとの関係は、先方の求めに応じてこちらが対応するケースがほとんどだった。
しかし、今回は逆である。私の方から「二人きりで会いたい」と申し入れたので「一体全体何の話だ?」との思いで会食場所に現れた。先ずお願いしたのは「今日の話をMTKさんがノ―と思うなら一切なかったことにしてほしい。また、イエスであっても横河トップの限られた人にとどめてほしい」と言うことである。こちらとしてはSPIN社内の役員・部長と有力候補に絞り込むところまでは合意できていたものの、交渉をスタートすることは決していない。まして東燃のチェンジチームやトップには何の話もしていない(譲渡先を検討中とは伝えていたが)。こんな状況下で、もし単独で横河との交渉していることが漏れたら、大混乱になる可能性が大きい。
この条件をお願いした後で、「ETS戦略のお披露目で横河電機が本格的にソリューションビジネスに注力することを知りました。その際美川社長はユーザー知見を短期に取り込むためには外部から人材を招聘したいと言っていました。それならばSPINを丸ごと買い取る案はどうでしょう?」と本題を結論から告げた。30年近い東燃での付き合いがあり、上司・部下としてお互いよく知り合った仲ではあるが、さすがにこれには意表を突かれたようで、しばらく私の顔を凝視したのち「面白い話だな」と受けてくれた。
このあと2年前(1996年)から始まっている東燃の経営改革(チェンジプロジェクト)、これが新事業の整理や人員合理化(早期退職優遇制度)ばかりではなく、子会社のリストラにもおよんでいること、それを受けてSPIN社内でも対応策を検討中であること、株式譲渡までは東燃・SPINとも合意形成が出来つつあることなど、ここに至る背景を縷々語った。
次いで話したのは個人的に横河を第一候補とした理由である。第一は何と言ってもETS戦略、第二は美川さんが社長になってからマスコミにもしばしばクローズアップされる雇用施策;定年後の再雇用制度と積極的な中途採用、第三は財務体質の良さ(これは少し前にMTKさんから聞かされていた)、この他自ら定めた買収先要件(本連載-15に列記)への合致点(こちらの勝手な思い込みも含めて)である。
MTKさんにとってもSPINは自ら作った会社だけに、話を前向きにとらえてくれ、「しばらく時間をくれ。ことがことだけに美川社長に直に話をするから」と返事をしてくれた。
(次回;横河電機への株式譲渡;つづく)
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