2017年6月21日水曜日

決断科学ノート;情報サービス会社(SPIN)経営(第3部;社長としての9年)-19


9.横河電機への株式譲渡-4
横河がデュー・ディリジェンス(Due Diligence)と呼ばれる(株式譲渡に関する)企業評価を行う前にいくつか済ませておかなければならないことがあった。今まで横河との接触は私が一人で行ってきたが、株主は東燃であり、私に譲渡交渉の当事者資格はない。当然これは東燃のしかるべき責任者が行うことである。19981月半ば、SPIN担当の役員であるFJM常務と横河のUEB常務の顔合わせがパークハイアットの和風レストラン個室で行われた。同席したのはMTKさんと私の二人。前回述べたように年末にFJM常務には確り経緯を報告してあったし、どこへ売却するかはともかく、SPINを他社に譲渡する考えは東燃社内で固まっていたから、問題なく交渉を先に進めることが合意された。ここで重要だったのは買収後の扱い関するSPINの希望を正式に伝えることであったが、これが原則として受け入れ可能との返事が得られる。
第二は先方の企業調査に実務者として当たるのは部長(さらにその指示を受ける課長)が中心となるので、彼らへの説明は不可欠、2月初めの日曜日九段にあった教育会館の会議室を借りて、それまで社内で行っていたSPINの今後を検討してきた役員・部長を集めて、横河との交渉経過の報告と協力を求めた。他社への株式譲渡までは合意形成は出来ていたものの、最初に横河が来ることには事務系システム開発のメンバーにはやや意外な感もあり、「なぜ横河から?」との疑義が投げかけられた。裏を返せば「なぜIBMや富士通からでないのだ?」と言うことである。これに対しては「今までのビジネスの発展過程や現状の顧客を見たとき、両社と等距離の企業にしたい」と答えるとともに、従業員の雇用保障、経営形態をしばらくの間このまま継続できるという条件が確かなこと、などを説明して納得してもらった。
もう一つ大事なことに東燃とSPINの間で決めておかなければならないことがあった。それは役員(既に退職している)を除く東燃グループ(東燃化学を含む)からの出向者に対して、早期退職優遇制度(加算金)を適用してもらうことである。通常この制度は東燃が再就職斡旋会社を紹介するものの、あくまでも個人ベースで退職後を決めることがベースになっている。今回はこの点に関し個人のリスクは大幅に軽減されるので、優遇制度が利用できない恐れがあったからである。幸いこの件もこちらの要望通り受け入れられ、交渉開始の下地が整った。
いよいよ2月半ばデュー・ディリジェンスに関わる人間を両社でアサインし調査・分析活動が、機密保持契約を交わしたうえで開始される。横河の担当者は、経理・財務および人事のUKIさん、販売・マーケティングのMZSさん、研究開発のTKGさん、技術のIDEさん・TMKさん。こちらは全部長が先方の課題に応じて対応することになるが、事務局機能は総務部長のMRYさんが務めることになる。一般社員には評価(NOの可能性もある)が出るまでそれが行われていることさえ知られては困るので、作業場所は専ら帝国ホテルの会議室を借りて進められた。担当者レベルで明確にできない懸案事項については、東燃のFJM常務や私がUEB常務と話し合う必要があったが、これはパークハイアットで朝食を摂りながら進めることが多かった。
この調査の中で、横河から求められた海外企業との提携や商品の独占販売権の継続は、機密保持も含めてややこしい課題だった。このため3月中旬単独渡米し、CDS社のTom Baker社長、OSI社のPat Kennedy社長と会い、その了解を取り付けた。またRoss社に関しては副社長が来日した際、持ち帰ってCEOの同意を得てもらうようにした。ただTomと二人で会ったとき「うちにも買収話が、SAPAspenから来ているんだ」との一言があり、チョッと気がかりだったが、こちらの要望が何の問題もなく受け入れられたので、あまり深刻には考えていなかった。


(次回;横河電機への株式譲渡;つづく)

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