13.海外提携会社動向-2
Pat Kennedyが創業したOSIsoft(前回OSIsoftwareと書いたが、正確にはOSIsoftでした。お詫びして訂正いたします)の名前(当時はOil System Inc.)を知ったのは1992年のことだった。Hydrocarbon Processingと言う石油業界の技術雑誌を読んでいる時たまたま興味深い投稿に行き当たった。内容はPI(元々はProcess Informationの略;パイと称して
いた)なるプラント運転のリアルタイムデータ(温度、圧力、流量など)を収集・蓄積するソフトウェアパッケージの紹介記事だった。コンピュータは画期的な計算・情報収集システムだったが唯一の欠点は情報を連続して収集・蓄積できないことである。限りなく連続しているように見えても原理的に間欠的になってしまう(現在では実用上超スピードで収集・蓄積できるのでアナログと変わりないが)。1990年代前半までは、頻度高く取り込んでも記憶蓄積する能力に限界があり、重要な変化点(例えば温度の異常変化)を落としてしまう可能性が高かった。これを記憶容量制約下で、独特の圧縮技術を使って扱うところにPIの特徴があったのだ。会社と著者名からOSIとコンタクトできたのは1993年春、苦労してやっとPatとファックスのやり取りができ、7月半ば学会で会ったのち、オークランド郊外の彼のオフィス兼作業場を訪れ、PIの日本語化を提案、賛同を得てその(日本語システム)総代理店になることが出来た。
最初の顧客は当時国内最大の石油精製企業日本石油(現JX-TG)だった。理由はDECとハネウェルとの組み合わせでPIの実績(米国)があったことによる。これがきっかけでPIは石油精製、石油化学、総合化学、食品と我が国の代表的なプロセス産業をユーザーとして抱えることになった。
ハネウェルをライバル視してきた横河がこれに着目するのは当然であった。SPINがOSIと提携して間もなく(まだ横河傘下になる遥か以前)、Patが「横河が資本参加したいと言ってきたが断ったよ」と耳打ちしてくれた。担当者はPatの考え方(決して経営権を渡さない)を全く理解していなかったのである。これには横河サイドにも理由があった。前回紹介したAspenとの提携は販売協力のみ、製品・サービスを握るAspenにいいようにあしらわれていた。「今度は資本(カネ)で何がしかの権利を得たい」の思いである。財務状態が良いOSIにその必要は皆無だった。
SPINの営業権を握る少し前、横河はPIと似た製品を開発していた英国の会社を買収する。買収調印には社長の美川さん(故人)が乗り込み、元全日本代表ラガーとしての英国知人たちの歓迎を受けたと聞く。しかし、ここの製品開発は遅々として進まず、横河は手を焼いていた。そんな環境下でのSPIN取り込みは朗報だった。そして、OSIの初期の顧客だったハネウェルが自社製品を開発・発売するにおよんで、OSIにとっても横河は魅力的なパートナーに写っていた。Patが横河傘下になることに無条件で賛成してくれた背景はそんな事情にあった。
しかし、横河の本流は自社製品にこだわる。英国子会社のPIから見れば幼稚なパッケージ製品をExaquantumなる名称で発売を始める。これで同じ会社の中に類似製品が二つあることになった。開発メンバーはもとより、自社製品しか売れない営業マンは当然Exaしか分からない。初めは歓迎されたPIに対して、冷たいことおびただしい。それでもPatは何とか横河に協力しようと努力するのだが、美川さん亡き後横河の代表役員は誰も来日したPatに会おうとしない。子会社化されたSPINはそれでも困らなかった。我が国ユーザーにはPIの優れた点を評価し「横河抜きで良いよ」と直接我々と取引してくれた。これは私がSPIN社長を退く2003年まで続いた。
その後2008年くらいまで横河・SPINはPIを国内では独占的に扱っていたが、OSIsoftはついに100%日本法人を発足させ、いまでは大部分のメンバーはここに移っている。PIは代表的な計測制御システムベンダー(ハネウェル、エマーソン、ABBそして横河)自社製品ともつながる中立的なシステムとして、世界に広く普及している。Exaquantumが採用されるのは、横河のDCSであるCENTUM(分散型コンピュータ制御システム)が導入された時に限られる。逆にCENTUMを入れてもPIを好む顧客が多い。
昨年秋三井物産がOSIsoftに出資したことが日経のニュースになった。これに関しPatが年初メールをくれた。「彼らの持ち分はほんの少し、支配する下心は皆無だ。三井の営業力は世界に広がっており、彼らはPIを使ってビジネスを拡大できると期待している。その例の一つは今まで食い込めなかった日本の電力会社向けシステムへの可能性である」とあった。三井物産はトップが彼を丁重に迎え、箱根のゲストハウスに泊め、東京電力のトップに会わせている。業態の違いもあるが、横河とのビジネスセンスの違いは明らかである。
(次回; 海外提携会社動向;つづく)
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