18.9年を振り返る(最終回)
1994年の社長就任は大波乱の下でのことだった。東燃グループの総帥でSPIN誕生のきっかけを作り、陰に陽にバックアップしてくれていたNKHさんが突然その任を解かれるところから始まった。後任社長のTMBさん始め経営陣は従来からの経営路線を本業回帰に修正するものの、SPINに対するスタンスは創業時と変わらぬ良好な関係をしばらく維持していったが、新規事業に対する大株主(Exxon/Mobil;E/M)の見方は厳しく、また石油業界の規制緩和と石油を巡る世界情勢から、一層の経営効率改善を求められ、少しずつ軌道が変わっていく。本体の人員削減・早期退職とコアービジネス(石油関連)以外は整理するとの方針が、はっきり打ち出されるのは1996年。グループ経営の全面にE/Mの意向が強く反映されるようになってくる。
1985年にスタートしたSPINは我が国バブル経済とIT利用の拡大によって、順調な発展をつづけ、2000年の株式公開を目指し、同業他社(ソフトブレイン;SBC)への出資やERPパッケージ取扱い(米国Ross社ルネサンス)などさらなる成長に向けて手を打っていた。しかし前述のように、社長就任前後から取り巻く経営環境に大きな変化が表れ始め、結局社長になって初の大仕事はSBC経営破たん処理、それに期待も大きいが負担の重いRoss社との総代理店契約締結だった。この新規分野(ERP)への取り組みが充分熟さぬうちに起こったのが、SPINのグループからの切り離し問題である。
IT業界のビジネス環境もダウンサイジン(PCの普及)、ネットワーク(インターネット)、オープン化・共通化(技術、製品)などで様変わりしつつあり、自社製品(ハード、ソフト)中心からソリューション(ITによる企業の課題解決)に移ってきており、巨人IBMですらその方向に舵を切ることで生き残りを図るような情勢。これはもともとユーザーから出発したSPINにとっては好ましい方向であり、計測制御システム国内最大手、世界五指に入る横河電機がソリューションビジネス(Enterprise Technology Solutions;ETS)に乗り出すタイミングで、1998年東燃から横河への株式譲渡が決まる。日本的経営(終身雇用)をベースとしてきたビジネスマン人生で予期せぬ激変を体験することになる(多くの従業員には“させた”)。
横河グループ入りして見えてきたことはETSの構想と実態の違いである。はっきり言ってトップの掛け声・期待と現場の乖離である。「何を商売にするのか」が社内外で明確になっていないし、道具ややり方もそろっていない。自社製品中心から切り替えたIBM(他社買収や営業体制の大掛かりな改革)との決定的な違いはそこにあったし、SPINをグループに加えたことが上手く生かされず、足し算の段階で止まっていた。シナジー(掛け算効果)が全く出ていないのだ。否営業が重くなる(横河、SPIN、地方代理店)など、顧客から陰口が聞かれるほどだった。これでは引き算である。加えて情報システムサービス子会社が何社もあり、トータルのボリュームはあるものの必ずしも効率的な経営になっていない。そこで取り組んだのがそれらの再編成であり、2003年横河情報システムとして結実した。
ここまでを振り返ると、SPIN発足のきっかけとなる1983年の東燃テクノロジー(株)システム部創設→1985年のSPIN設立→1998年の横河電機への株式譲渡→2003年の再編成による横河情報システム(株)の誕生、と20年間にわたって情報サービス業に関わってきたことになる。これはそれまでの全ビジネスマン人生の丁度半分にあたり、しかもその変転は前半とは比べものにならぬほど激しいものであった。中でも社長としての9年は、経営環境変化への対応に追われ、辛くもあったが挑戦し甲斐のある充実した日々を過ごせた。もしSPINが誕生せず、そのまま東燃に留まっていたら定年は1999年、本社情報システム部長か小さな子会社の窓際役員くらいで引退が良いところだっただろう。この9年無くして、今の活力は維持できていなかったのではないかとさえ感じている今日この頃である。その意味でこの9年の体験は私にとってかけがえのないものであった。
何度か中断しながらSPIN経営を3部に分けて連載してきた。第1部は創設準備段階から取締役任用前までの3年間。これが2014年4月に始まり、28回を数えて2014年11月まで。第2部は1988年の取締役就任から1994年社長内定まで、2014年11月から2016年3月まで41回。社長時代の第3部が始まったのが2016年10月、今月はそれからちょうど一年になる。第1部が28回、第2部が41回、第3部が37回、3年半かけて計106回を数えた。
このブログ本体を立ち上げたとき、自分が関与してきた仕事(SPIN関連以外を含む)をできるだけ意思決定の場や背景中心に書き記し、それをベースに経営上の“決断”を整理し、他の事例(ビジネス以外も含め)と比較分析する目論見であった。今回で自分仕事史は終わったが、比較分析は全く手についていないし、構想さえできていいない。何から始めるか?それが次の課題である。
長いこと拙い連載にお付き合いいただき、時には励ましや助言をいただいたことに深謝いたします。
-完-
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