「精製側はDDCゆえにトラブルが多い」という工場長発言の背景には当時の川崎工場の運営体制にあることを理解しておく必要がある。川崎工場は東燃グループが石油化学事業へ進出するために発足した経緯があり、工場長は石油化学籍の役員が精製部門も兼務する形で務めていた(その下にそれぞれを担当する工場次長が置かれていた。現在は二人の工場長が居る)。1970年に精製工場が石油化学の主力工場とは離れた場所に本格的に建設・運営され、それ以降精製関連事業のウェートが増し、兼務する工場長を煩わせる問題も、精製側が急増していた。工場の最大の経営管理課題は安全・安定運転である。そこから冒頭のような発言が出てきていたのである。
DDCに関するFJNさんの問題意識は、前回書いたように運転組織に関するものの他、集中型DDC(一台のコンピュータでプラント全体を制御・監視する)の持つ弱点(それが止まると全プラントが停止する)もあるのだが、次世代は分散型DDC(Distributed Control System;DCS)になっており、初代とは構成が全く違って危険分散されていることを説明し納得してもらった(エクソン・ケミカルの最新鋭プラント、BOPに既に導入されている実績も大いに寄与している)。これで「運転組織に関してはプロジェクトを立ち上げるときまでに整理する」と合わせて一応一件落着となった。
しかし集中型DDCと安全問題について、これを機会に少し掘り下げ、その結果を周知すべきだとも感じた。そこで直ぐに二人の担当者を選び、私と三人でこの課題に取り組むことにした。一人は計測・制御の専門家ながら、新入社員時プロセスエンジニアとしての経験も積み、EREにも長期派遣されていたYNGさん。もう一人は現場計装技術者として和歌山・川崎両工場をよく知り、DDCの知見も豊富なTYBさんである。
分析の材料は、工場環境安全室が事務局を務める安全防災小委員会が長年(精製工場が本格スタートして1970年以降)まとめてきた資料を基にすることにし、関連参考情報を和歌山工場からも集めることにした。焦点は火災・爆発・油漏れ・ガス漏れなど物理的なトラブルに限定し、専ら人的と思われるもの(怪我など)はサンプル数の関係や因果関係の詰が難しいので外すことにした。またトラブルは小委員会分類に基づき重み付けを行った。そして単純な集計だけではなく、単位面積当たりのエネルギー保持量(時間的な動きは考慮せず、通常運転時の静的な状態)と同じく単位面積当たりの鉄鋼構造物の重量を基準に分析してみた(つまりエネルギーが集中するところ、装置が大きく複雑なところではトラブルが多いという仮説をたてた。本当は単位体積あたりがより望ましいが、計算が複雑になるので採用しなかった)。
その結果は、トラブルの発生がこれら分析因子と強い相関を持つことが明らかになり、(集中型)DDCにその因があるというFJNさんの思い込みを正す結果が得られたのである。二人を伴いこの分析報告を工場長室で行い、FJNさんにこの問題に対する認識をあらためていただき、新システム導入の強い支援者の一人を獲得することが出来た。
この分析には後日談がある。当時私がメンバーとして参加していた、化学工学会プラントオペレーション研究会(高松京大教授、大島東工大教授などが発起人)でこれを発表した。総じて「面白い研究だ!」と評価していただいたが、メンバーの一人ダイセル化学の技術担当役員だったMTSさんから「しかしちょっとサンプル数が少ないな」との意見があった。自身でも“牽強付会”と思わぬでもなかったところもあり、“ギクッ”とさせられた。
(次回;比較調査へ戻り、ベンダーセレクションに入る予定)
注:略字(TCC、ERE、ECCS、SPC等)についてはシリーズで初回出るときに説明しています。
2011年6月26日日曜日
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