2011年8月10日水曜日

道東疾走1300km-7;ファーム富田

 スキー・リゾートとしてある程度知られてはいたものの、富良野一帯を有名にしたのは、何と言っても、丘陵地帯に広がるラベンダーを中心とした花畑であろう。今ではこれが最大の観光客誘引の目玉になっている。その嚆矢となったのが“ファーム富田”である。
 この地方のラベンダー畑はもともと観賞用ではなく、専ら化粧品の香料として栽培されていたのだ。食べていくための手段である。しかし、化学工業の発達で人工香料が普及し始め、それに太刀打ちできなくなった畑は次々と他の作物に転換されていった。富田農園も同じ運命にあり、ラベンダーの畑は年々縮小されていった。しかし、最後の一角は愛おしく、何とか残していたところ、1976年ある写真家の目にとまり、旧国鉄の美しいカレンダー写真に仕上がったのだ。これが切っ掛けになり、富良野=ラベンダー畑のイメージが、全国的に知られるようになる。やがて花に限らず、野菜や穀物の畑が穏やかな起伏を成す景観と相まって、日本離れした風景を作り出し、コマーシャルに登場してその知名度を更に高めていったのだ。スカイライン(自動車)の“ケンとメリーの木”、“マイルドセブン(タバコ)の丘”などが代表的なものである。
 その意味で、この“ファーム富田”の踏ん張りが、今日の富良野地方振興に及ぼした力は計り知れないものがある。最後まで踏み留まった畑は“トラディショナル”と名付けられ、その盛衰を今に伝えている(写真上右)。
 ホテルからファームに向かうには、この地と札幌を結ぶ38号線に出て富良野の街の北端で花人街道(237号線)に交わり、旭川方面へ北上する。8時少し前ホテルを出発、小雨の38号線を富良野に戻る方向をとっていると、札幌ナンバーの観光バスが前を行く。大きなバスに前を塞がれるのは鬱陶しい。しかし、バスは237号線には向かわず、少し手前を左折する。やれやれと思い、こちらは237号線との交差点で左折し、街道をファームのある中富良野方面へと進んでいく。しばらく行くと左側200m位を併走する先ほどのバスが見える。こちらは“花人街道”とは言え、左右には自動車販売店やスーパーなどが現れ、広い歩道もあるので“田園の中を行く”感からは程遠い。やがて道路標識に“ファーム”が示され、西へ左折して街道を離れしばらく行くとあのバスが通っていたと思われる道に合流する。プロはどこを走るべきかよく承知している。これはこの日味わうことになる失望感の先触れでもあった。ファームの駐車場には先ほどのバスが既に到着、観光客がツアー会社の傘をさしながらお花畑に向かっている。
 4月下旬から9月にかけては8時オープンの広い花畑はもうかなり人が入っている(入園も駐車場も無料!)。年間で100万人が訪れるというのだが、経営はどうなっているのだろう?
 花畑は、大型バスすれ違いがぎりぎりの道路を挟んで西から東へ下る斜面に展開する(写真左)。西側は小規模で、トラディショナルはこちら側。ここはラベンダーだけだから東側に比べると地味な感じがする。しかし写真家はこれを見事な風景に切り取っているのだ。
 メインは東側、畑を二分するポプラ並木の左右に展開する。北側はラベンダー、南側は赤・白・黄・青と素晴らしい色模様だ。傾斜地ゆえの効果も大きい。季節により、時間により、そして天候によって色合いが変わっていくのだろう。遥かに望む十勝の山々、その山々と花畑との間に展開する広々とした平野、との組み合わせは幾千万に及ぶ。小雨に煙る風情も決して悪くはなかった(写真右、下)。
 道路を通過しながらこんな景色を楽しむ。これが出発前の計画だった。駐車場の管理人にそんな道の有無を尋ねたが、この付近にそんな道はないという答え。“花人街道”へ戻れば何か在るだろうとファームを離れた。
 実はラベンダー畑の規模と言う点では、ここが237号線の東に経営する“ラベンダー・イースト”の方が遥かに大きい(日本最大級;トラクターが牽引する観覧車で見学)。しかし、今日の行程はまだ先が長く、そこへ立ち寄ることは断念せざるを得なかった。
 富良野から美瑛(びえい)に跨る景観や花畑を充分楽しむためには、この地方に最低二泊することが必須であると痛感させられた。

(次回予定;オホーツク海を目指して)

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