2014年9月21日日曜日

決断科学ノート;情報サービス会社(SPIN)経営(第Ⅰ部)-19


3.初年度1985年の経営-2
どんな会社にしていくか?数々の課題の中で、提供サービスと顧客対象(業種)は最も重要なものの一つである。設立準備段階の検討会・経営会議では何度もこの問題が論じられた。PC利用のダウンサイジングが主流になりつつあることから、そちらに向かうべきだという意見。伸びる分野は製造業から金融を中心とするサービス業に移りつつあるから、市場をそちらに求めたらどうだ?コンピュータ本体よりも通信絡みのネットワーク利用形態に変わりつつあるのだから、知見のある制御技術をその方面に転じられないのか?などなど。確かにどれも成長が確実視されているし夢がある。数年先まで先行投資が許される新規事業の探索なら面白いが、今年半年は主にグループ内業務で稼げるとしても、来年度以降は外部売り上げを伸ばし、そこから利益を得ようとするならば、そんな悠長な取り組みは出来ない。
グループ内で長年取り組んできた経験、1年半のTTECにおける外販ビジネスで漠然と感じていた我々の強みは“化学プロセス”に精通していることである。同じ製造業でも組立加工業は企業数も多いが、そこへ情報サービスを提供する会社も多い。付き合いの深いIBMや富士通を見ても事業本部規模の組織で自社の社員が多くそのプロジェクトに関与している。しかし、このような先端情報技術会社でも化学プロセスが顧客になると、自社で提供できるのは“コンピュータ技術”に関わるところまでで、個々のアプリケーションは顧客自身で構築する部分が多いのだ(現にIBMは自社製品のACSAdvanced Control System)の適用技術サポートは当社に委ねている)。何故か?
多くの素材・エネルギー産業では、原料も製品も外部から見えないまま(タンク、加熱・冷却機器・蒸留塔、反応装置、パイプの中にある)処理工程(プロセス)が進んでいく。さらにその層(気体・液体・粉体など)が処理工程で変化する。一個・二個とカウント出来ずしばしば単位も変化する(体積→重量)。処理工程で直接物の本来の価値を測れず間接的な計測値(温度や圧力)で代替するので、物性を間接値から推定する必要がある。このような特徴はプラント運転と言う技術関連業務だけでなく、原価管理や販売管理など事務処理にもおよぶ独特の情報処理体系を作り上げ、これに基づく経営管理が行われている(体積・温度・圧力→カネ;原価・売上・税)。これを外部の人間が理解しシステムを作り上げるには相当高いレベルの努力が必要となる。
広義のプロセス工業には石油・石油化学、汎用素材化学、特殊化学(農薬・肥料、塗料、接着剤など)、鉄鋼・非鉄、紙パルプ、セメント・ガラス・ゴム、電力・ガス・水道、食品・薬品、半導体などがあり、それぞれに業種独特の技術や商習慣があるものの、石油・石油化学で培った知見の活用はこれらにも適用できる可能性が高いことから(現にTTECシステム部として川崎製鉄(現JFE)千葉製鉄所高炉制御用コンピュータのプロジェクトを受注・開発していた)、この化学プロセス分野を当面の主戦場とすることで、設立直後に作成した経営計画(コーポレート・プラン)をまとめた。
これはその後のことになり、以後事例の中でもおいおい紹介することになるが、私が退任するまで顧客になっていただいた企業は、石油・石油化学に関しては出光興産を除く全て(出光石油化学はTTEC時代からの顧客)、総合化学では三井化学、三菱化学、住友化学、一般化学ではダイセル、電気化学、徳山曹達、日本ゼオン、タイヤではブリヂストン、住友ゴム、セメントでは太平洋セメント、食品では味の素、サントリー、都市ガスでは大阪ガスなど我が国を代表するプロセス関連企業が名を連ねることになる。

(次回;初年度1985年の経営;つづく)


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