13.総括(最終回)
今回初参加、ハラハラ・ドキドキの少ない完全なツアーなのに、たった8日の旅を4ヶ月もかけて、ダラダラと書き続けてしまった。実は、(仕事以外で)ヨーロッパに出かける機会があったら是非行ってみたい、と20年来思っていた国の見聞記だからだ。何故スペインにそんな思い入れを?高校で世界史を学んだ際「太陽の沈まぬ帝国」と称するほどの大国であったことを知った。それでいながら、(個人的に)“嫌み”を全く感じなさせない国、これが私のスペイン観である。中・仏の中華思想、英の狡猾さ、独の傲慢さ、米・ソの覇権主義、いずれの国もこれら特質から他を見下すところを意識させられてしまう。そんな雰囲気が無いのはイタリア(ローマ帝国の末裔ながら)とこの国だけである。
結果は“イメージ通り”だった。若者の失業率が極めて高いのだが、誰も明るく人懐っこい。卑しさもなければ偉ぶった態度もない。スリ・かっぱらいが多いと言うが、街歩きにギスギス・ガツガツした感じは全くなかった(場所と時間にも依るのだろうが)。この国を揶揄する時にしばしば取り上げられるルーズさ(特に時間)についても、輸送機関に関する限り問題はなかった。つまり外国人に極めて居心地の良い社会なのだ。
垣間見たスペインが近しく感じたのは食にもある。格別凝った食事をしたわけでもないが、全般に口に合った。海岸地方の魚料理、イベリコ豚、ステーキどれも美味しかったし、ヴォリュームも適量だった。加えてワインが良い。中でも辛口のシェリー酒は今まで味わったことのない爽やかさが気にいった(日本を含めスペイン外では専ら食前酒の位置付けで甘口ばかりだった)。スペイン人はこれ(多分辛口)を食事と伴に楽しんでいたから、“食前酒”と言うのは英国人辺りが作り上げた慣習ではなかろうか。この他にも、ハモン(生ハム)、オレンジジュース、オリーブ(サラダ)、どれも毎日食べても飽きない。タパス(スペイン小皿)をバルで楽しめるのも、日本の居酒屋嫌いの私には向いている。
宿泊先はアメリカンスタイル(グラナダ)、欧州スタイル(バルセロナ、マドリッド)、パラドール(カルモナ)に泊まったが、好みはこの逆になる。グラナダの場合、ホテルそのものに不満は無かったのだが、ロケーションが悪く(市外の高速道路沿い)、住民の日常生活との接点がなかったことが評価を下げた。パラドールも街の中心部に在ることは珍しいようだが、そこに留まるだけで歴史に浸れる良さがあるので、これは街中から離れることにも一興がある。
今回観光の最大関心事、西欧文化とイスラムの関わりも、グラナダ、コルドバ、トレドで堪能できた。特にアルハンブラ宮殿やコルドバのイスラム建築の素晴らしさにうたれた。ただ、もう少し日程に余裕があれば、これら古都に数日留まり、観光客であふれる名所旧跡ばかりでなく、その街の今の生活にも触れることが出来たらと思った。その点ではバルセロナとマドリッドはそれなりに自由時間を楽しんだ。音楽や美術・建築にも伝統的なものからモダニズムまで優れたものが多く、その分野に造詣を欠く一見の観光客にも理解しやすく、耳や目を楽しませてくれた。これら人間が介在する見所に比べると、今回のルートで観る限り、自然はなべて単調で、風景に感動することはなかった。
最後に大好きな乗り物である。必須科目のスペイン新幹線AVEについては2回にわたって紹介したが、そこにも書いたように、これはスペイン独特のタルゴ形式(一軸台車)ではなく、車両はフランス製、運行はドイツシステム、フランスやイタリアなど他国の新幹線と基本的に変わらない。大都市でも地下鉄利用に警告を発せられたのでトライせず、結局スペインらしい鉄道経験は得られなかったのは心残りだ。
高速道路は思っていた以上に整備されていた。おそらく他のヨーロッパ諸国と遜色ないだろう。サービスエリアなども充実していて、クルマの旅も面白そうだ。問題は旧市街の中心部、城塞都市内部など「こんなところを走っていいのか?!」と思うような通りが随所にある。マドリッドですら一方通行が多く、これはその土地になれていないと大変だ。こんなところを欧州では一般的なハッチバックの小型車が走り回っている。バルセロナではプジョーやルノーなどフランス車が多かったが、他の都市では国産のセアト(一時日産が資本参加、現在はVW傘下)とゴルフ、ポロに代表されるドイツ車が目立った。日本車はルノーやセアトとの関係もあるのだろう日産車を比較的よく見かけた。トヨタは何と言ってもプリウス、マドリッドではタクシーに多用されていた。これは2年前のパリ同様、チョッと特異な存在である。
全体の印象として、人好し・食良し・気候よし、社会システム全般もあまり違和感がなかった。機会があったら、もう一度自分で考えた計画で旅してみたい。その日のために、20年前入手した中丸明という人の書いたスペイン紀行3部作「スペイン五つの旅」「スペインひるね暮らし」「スペインうたたね旅行」を再読しながら、今回の旅を反芻し、その日に備えよう(歳を考えると実現する可能性は薄いが)、などと思う日々である。
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(完)
-長いことご覧いただきありがとうございました-
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